【83】スターライガⅥ:共同戦線
乾坤一擲の最初のコンタクトは"強運"を呼び寄せた短距離戦術打撃群艦隊が圧倒し、次の攻撃チャンスに向けて大きなアドバンテージを得た。
先手必勝を続ければ敵にターンを渡すこと無く戦えるのだ。
「CICよりフライトクルー、航空隊の発艦を急がせて!」
敵陸上戦艦の攻撃行動が弱まったと判断したアドミラル・エイトケンのメルト艦長はこの隙にMF部隊の再出撃を命じる。
「ゲイル隊は出せません! ブフェーラ隊だけになりますが、よろしいのですか!?」
「構わないわ! 敵艦を一気に押し込むためには手数が必要なのよ!」
それに対し航空管制を担うフライトクルーの責任者は懸念を示すが、対艦戦闘の手数を欲しているメルトは艦長権限で自らの意見を押し通す。
前哨戦の対エース部隊戦で予想以上に消耗したゲイル隊は機材・人員共にダメージを受けており、本作戦中の再出撃は困難であった。
頼みの綱は消耗度合がまだ少ないブフェーラ隊だけだ。
「……了解しました。直ちに出撃準備に取り掛かります」
結局、これについて議論を過熱させる必要は無いと判断したフライトクルーは指示に従うことにした。
「エミール中尉、スターライガのMF部隊と通信できるか試してちょうだい」
艦載機の運用方針を決めたメルトはヘッドセットを外しながらオペレーター席の方を向くと、メインオペレーターのエミールに通信回線の確保を求める。
通信相手は当然スターライガチーム――今も自分たちを護衛するように戦闘中のMF部隊だ。
「了解――回線接続、成功しました。少し音質は悪いですが……艦長のヘッドセットに音声を回します」
慣れた手つきで素早く回線接続を済ませたエミールは注意事項を伝えつつ上官が交信に集中できるよう手配する。
「――■■のコールサイン■レンオアム。用件を■■にどうぞ」
事前説明通り最初は確かにノイズが酷かったが、やがて音質は安定し相手の声を明確に聞き取れるようになる。
スターライガチームは部外者との交信時は個々人に宛がわれたコールサインを使用するため、"レンオアム"が何者なのか短距離戦術打撃群艦隊が直接知る術は無い。
ただし、無線通信用の光線を逆探知するカタチでの特定はできるので、その発信源がクリムゾンとビリジアンの可変型MFであることは判明していた。
「オリエント国防海軍第13独立艦隊司令のメルト・ベックスです。先程は迅速且つ的確な支援、ありがとうございました」
相手が実際に話を聞いているかは定かではないが、メルトは自分たちの氏名と所属を名乗りつつスマートな支援攻撃に感謝の言葉を述べる。
「その上で援護を継続して頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
しかし、彼女は交渉次第で更なる援護を引き出せるとも考えていた。
◆
「……構いませんよ。私たちはそのために送り込まれて来たのです」
クリムゾンとビリジアンの可変型MFを駆る"レンオアム"――ヒナ・リントヴルムからの返答は極めて前向きなものだった。
「! ありがとうございます!」
すぐにポジティブな回答が返ってくるとは思っていなかったメルトは少し驚いたが、最高の交渉結果を引き出せたことに笑みを浮かべる。
「これより本艦は艦載機を発艦させます。速度が出ておらず敵に狙われやすいそのタイミングをカバーしてもらいたいのです」
それを自覚した彼女は意識的に表情を引き締め、自分たちが求めている具体的な援護について説明し始める。
今必要としているのは艦載機を再出撃させるためのチャンスだ。
「分かりました。では、艦載機のカタパルト射出直前にこの回線でまた知らせてください」
「……フライトクルー、発艦準備急げ!」
ヒナとの交信を終えたメルトはヘッドセットを操作し回線を切り替えると、現在進行形で発艦準備を進めているであろうフライトクルーたちを急かす。
「機体の準備はできています! 艦の姿勢が安定すればいつでも打ち出せます!」
幸いなことに仕事ができるフライトクルーは準備自体は既に完了していた。
むしろ相手の方が艦載機を安全に発艦させられるタイミングを待っていた。
「リリス大佐、あなたたちが発艦する際はスターライガのMF部隊が援護してくれます」
状況を確認したメルトは再び回線を切り替え、機体に搭乗した状態で待機中のリリスに対し各種注意事項を伝えておく。
「それはありがたい。まあ、航空優勢を取れている状況ではそこまで気を回してくれる必要は無いかもしれないけどね」
リリスはスターライガチームの行動が純粋な善意ではなく、自分たち正規軍から信用を得るための"アピール"であることも見抜いていた。
「頼みますよ……セシルたちが出られない以上、稼働できる航空戦力はあなたのブフェーラ隊だけなんですから」
真意の程はともかく、エース部隊の片割れが使えないメルトたちにとってスターライガチームは最強の友軍であった。
◆
一方その頃、ヒナ率いるスターライガチームのMF部隊――Η《イータ》小隊は陸上戦艦バクリュウに取り付き、甲板上の構造物に対し攻撃を開始していた。
「援護って言ってもな、彼女らは既に一人前だ。私たちにしてやれることがあるか?」
小型軽量且つ瞬間火力に優れるソードオフショットガンの二丁持ちスタイルで暴れ回っているシズハは、短距離戦術打撃群艦隊への援護の必要性に疑問を呈する。
もちろん、相手方の戦闘力を不安視しているのではなく、むしろ実力者だからこそ下手に干渉してリズムを乱してしまうことを懸念していた。
「艦載機を発艦させる際は艦を安定させる必要があります。当然、その瞬間は敵にとっても唯一にして最大の攻撃チャンスになり得ます」
二回り以上年上の僚機の意見に対し、ヒナは短距離戦術打撃群艦隊からの支援要請を受け入れた理由を説明する。
自らの指揮内容に意見具申が行われた時、その正当性を証明して周囲を納得させられる能力が小隊長には必須だ。
さもなければ部隊をコントロールすることができず、結果として全体的な戦闘力を低下させてしまうだろう。
「タイミングを見計らってアドミラル・エイトケンに接近し、スモークグレネードを投下することで艦の周囲に煙幕を展開します」
ヒナの愛機トリアキスFは多種多様な擲弾を発射可能な小型マルチランチャーを腰部に固定装備しており、本作戦では煙幕を発生させるスモークグレネード(発煙弾)を装填している。
彼女はこれを友軍艦隊の周囲に投下し、可視光線及びレーダー波を遮断するというテクニカルな援護を考えていた。
「その間、私たちは陸上戦艦の攻撃力を少しでも削ぐために兵装を破壊せよ――ですね?」
「今日は頭が冴えているじゃない、ソフィ。あなたの言う通り……頼んだわよ」
一連の説明内容から自力で正解に到達したソフィの地頭の良さを褒めつつ、ヒナは正しい指示内容を改めて伝える。
安全確保の最善策は脅威を速やかに排除することだ。
そして、小回りが利き必要最低限の火力も出せるMFはそういった任務に適していた。
◆
「Ζ《ゼータ》小隊もすぐに合流する。ウィークポイントを狙った精密攻撃で一気に決めるぞ」
「了解! 対艦攻撃を継続します!」
シズハのミカドアゲハとソフィのスターシーカー・フォルテは陸上戦艦特有の構造――例えば地上をホバー推進するための装置などを弱点として見定め、そこをピンポイントで攻めるべく動き出す。
MFの火力は闇雲な攻撃で戦艦を撃沈できるほど高くは無い。
限られた火力で効果的な攻撃を行うためには頭を使う必要がある。
「私も援護が必要になるまではこっちに加勢するわ」
僚機が敵艦の足回りに攻撃を仕掛けている間、ヒナのトリアキスはまだ破壊されていない対空兵器を的確に処理していく。
どんなに強力な陸上戦艦も丸裸にしてしまえば友軍艦隊への有効打を失うことになる。
「(と言っても数十秒ぐらいかしら……限られた時間でやれることは少ないかもしれないけど)」
短距離戦術打撃群艦隊の手際の良さを加味したヒナは対艦攻撃に充てられる時間を数十秒と見積もるのだった。
【Tips】
MFドライバー個人を指すコールサインは専門用語では"TACネーム"と呼ばれる(戦闘機パイロットも同様)。
スターライガチームの場合、移籍組の大半を占めるオリエント国防空軍出身者は正規軍時代のTACネームをそのまま使っていることが多い。
「極端に冗長な単語でないこと」「公序良俗に反しないこと」「現在使用中のコールサインと重複しないこと」といったルールを守っていれば比較的自由であり、エースドライバーの中には凝ったTACネームを持つ者も少なくない。




