【82】スターライガⅤ:名将怒涛
ダカール市域東部に位置するブレーズ・ジャーニュ国際空港の制圧戦で航空隊を消耗した短距離戦術打撃群艦隊。
艦載機の再出撃準備が整うまでの間、彼女らは航空支援無しで敵部隊と戦わなければならなかった。
ただし、航空支援を得られないという条件は爆撃機を全機撃墜された敵部隊も同じだ。
「(陸上戦艦――1隻だけ生き残りがいるという噂は知っていたけど、こんな辺境に隠れていたとはね……)」
自分たちが共闘していたNATO軍艦隊の旗艦を超長距離砲撃で撃沈した敵戦艦――いや、より正確には"陸上戦艦"の存在をメルトは聞いたことがあった。
彼女の乗艦アドミラル・エイトケンと砲火を交えている旧ルナサリアン製陸上戦艦のコードネームは"ランドシップ"。
ルナサリアン戦争時には目の前の艦を含む3隻が運用されていたが、うち2隻は戦時中に撃沈されたという。
ちなみに、当時中東地域に展開していた1隻を撃沈したのは今回の戦闘に飛び入り参加してきたスターライガチームだ。
「速力及び陣形はこのまま! 対艦ミサイルによる飽和攻撃を行いつつ肉薄し、艦砲射撃及び対艦ロケット弾による砲雷撃戦を仕掛ける!」
敵陸上戦艦の兵装の中でも最大最強の攻撃力を誇るレールガンを警戒するメルトは短期決着が必須と判断。
艦隊の機動力を活かして最短距離で接近し、懐に飛び込みながら防御困難な攻撃を浴びせる戦法で行くことを決めていた。
重雷装ミサイル巡洋艦に分類されるアドミラル・エイトケンは艦砲の基数が少ないため、大量のミサイルと"魚雷"がメインウェポンであった。
◆
「弾幕を密にしろッ! 艦砲射撃及びミサイル攻撃による牽制も怠るなよ!」
地球人たちがランドシップと呼称する陸上戦艦――正式名称"タケハヅチ型陸上戦艦バクリュウ"の艦長レーヴェンタールは防御態勢の重視を指示。
重装甲と重武装にモノを言わせた立ち回りで一転攻勢のチャンスを待ち続ける。
「(回りくどい手は使わずに機動力を活かした艦隊突撃で攻めてくるか……オリエント人らしい真っ直ぐな戦い方だ)」
とはいえ、巡洋艦1隻と駆逐艦4隻を単独で同時に相手取るのは極めて困難な状況だ。
数とスピードで押し込んでくる敵将の戦い方にレーヴェンタールは素直に感心していた。
結局のところ、戦力で勝っているのならば変化球に頼る必要は無いということなのだろう。
「(受けて立つぞ……メルト・ベックス艦長!)」
陸の王者の力を信じて真っ向勝負に臨むレーヴェンタール将軍。
「(この戦い方……指揮官はヨーロッパ人か! しかも、船乗りの動き方とは全然違う!)」
一方、陸上戦艦の立ち回り方からメルトは瞬時に相手の特徴を見抜く。
一般的な対艦戦闘のセオリーが通じない、少々難しい戦いになる可能性を彼女は覚悟した。
「(まるで超巨大な戦車を相手している感覚だわ……)」
最大戦速での挙動、各種兵装の特性、全体的な間合いの取り方――メルトは対艦戦闘との違いをひしひしと感じていた。
「艦長! 敵艦の甲板上に高エネルギー反応発生!」
「レールキャノンが来るぞッ!」
その時、コンソールパネルのモニター画面に異常な数値を認めたオペレーターのエミールが声を上げる。
それを聞いたシギノ副長はレールキャノンのチャージで発生した電気の奔流だと判断し、万が一の場合に備えて身構える。
「マオ大尉ッ!」
「くッ……!」
メルトから名前を呼ばれた操舵士のマオは自己判断で操舵輪を目一杯回すのだった。
◆
わずか数十秒の時間に2隻の戦闘艦の駆け引きは集約されていた。
「(大丈夫……大尉の操舵なら攻撃はギリギリ躱し切れるはず)」
3年前から舵を任せている操舵士の能力を信じて冷静沈着に構えるメルト。
「(もっと近付いて来い……確実にブチ抜いてやる)」
強気な突撃を仕掛けてくる重雷装ミサイル巡洋艦に痛烈なカウンターを食らわせるべく、タイミングを計るレーヴェンタール。
「将軍ッ! 所属不明機が高速接近してきますッ!」
「数3! モビルフォーミュラです!」
真っ先に異変に気付いたのは陸上戦艦バクリュウの方だった。
同艦のレーダー管制官たちは敵航空戦力の超高速接近を相次いで報告する。
「くそッ、スターライガは近付かせるな! 鬱陶しいスズメバチを叩き落とせ!」
敵航空機の速度は明らかにマッハ1を超えており、細かな対応を考える余裕は全く無かった。
それでも以前の報告からスターライガの参戦を知っていたレーヴェンタールは咄嗟に指示を飛ばす。
「シズハさん、ソフィ! ブースターユニットをレールキャノンにぶつけて!」
成層圏下層からダイブする時点で艦隊戦を視界に捉えていたヒナは、僚機に対し高高度戦闘用パッケージのブースターだけを分離して攻撃手段とするよう命じる。
当然ながらブースターユニットは本来武器ではないが、逆に言えば対応困難な搦め手として使える可能性があった。
MF本体よりも小さい物体に超音速で接近されたら迎撃は間に合わないし、その速度で接触したらどんな小物でも凶器となり得る。
「ええ!?」
「やるしかないぞッ! 分離したブースターが接触しないように気を付けろよ!」
訓練でやったことが無い攻撃方法にソフィは少なからず困惑するが、実戦経験も人生経験も豊富なシズハは速やかにブースターユニット分離の操作に取り掛かっていた。
「ブースターユニット、パージ!」
シズハの乗機ミカドアゲハは両脚を前方に向けながらスラスター噴射することで速度と体勢を調整しつつ、高度を大きく変化させない宙返り機動"クルビット"と同時にバックパックに接続されていたブースターを切り離す。
「くッ……ブースターユニット、パージ!」
彼女よりも技量が劣るソフィは複雑な機動は行わず、ブースターユニット分離と同時に自機が上昇することで空中衝突を避ける。
「(私はギリギリまで攻撃を続ける……!)」
一方、言い出しっぺのヒナの愛機トリアキスFは増加装甲兼ブースター"ロングテールユニット"を装着した重装備形態が標準となるため、緊急時を除き追加装備の単分離は想定していない。
「ロング・ギガ・バスター、ファイアッ!」
クリムゾンとビリジアンの可変型MFはブースターユニットが敵艦のレールキャノンに衝突したのを確認すると、追い打ちだと言わんばかりにロング・ギガ・バスターのエネルギーを全て使い切るのであった。
◆
「ちょ、超電磁砲に損傷発生! 安全装置作動します!」
スターライガチームは高電圧のオーバーロードによる自爆を期待していたのだろう。
しかし、超電磁砲の電力系統に備えられている優れた安全装置により最悪の事態は回避された。
もっとも、安全装置が機能しなかったら危険だったことに変わりは無かったが……。
「So ein Mist...敵が雪崩れ込んでくるぞ! 衝撃に備えろ!」
こちらのターンが潰されたということは、今度は相手の猛攻が始まるということだ。
それを待ってましたとばかりに突撃してくる敵艦隊の姿を確認したレーヴェンタールはブリッジクルーたちの安全を優先する。
「主砲及び右舷"トーピード"、撃ち方始めッ!」
さて、スターライガという"幸運"を呼び込んだ短距離戦術打撃群艦隊が切ったカードは至ってシンプルだ。
メルトのアドミラル・エイトケンは陸上戦艦の左側に飛び込み、すれ違いざまに152mm単装砲と艦対艦ロケット弾による肉薄攻撃を叩き込む。
反撃による多少の被弾は厭わない。
「駆逐艦は右側から攻撃を仕掛ける! 主砲射撃開始!」
旗艦が攻撃できない右側はステファン・オルフェーヴル中佐の乗艦ペーガソスら駆逐艦4隻でカバーし、127mm単装砲2基による至近距離艦砲射撃を順番に浴びせていく。
火力不足は単縦陣のフォーメーションを活かした連続攻撃で補う。
「きゃあッ!?」
「ぐッ……Geht es dir gut?(大丈夫か?) 被害状況を報告しろ!」
5隻の艦艇から集中砲火を浴びたバクリュウのCIC(戦闘指揮所)が激しく揺れる。
堪らず悲鳴を上げるクルーを気に掛けつつもレーヴェンタールは状況報告を急がせる。
意図せず母国語のドイツ語が出てしまっていることからも彼の焦りが感じられる。
「超電磁砲の誘爆は回避されましたが……損傷率は40%を超えています」
敵の艦隊突撃を食らうまでダメージは殆ど無かった。
それが一瞬にして中破と呼べる範囲まで拡大してしまった。
「右舷側第一甲板から第三甲板までの広範囲で火災発生中!」
「左舷側では火災は確認されていませんが、船体が大きく損壊し死傷者も多数出ているとのことです」
オペレーターたちからは火災に関する報告が次々と挙がってくる。
火の手の回り方次第では乗組員の退艦も検討すべきだろう。
「消火及び救助活動に一部人員を回せ! ただし、自分自身の安全確保が最優先だ!」
あらゆる可能性を考慮しつつもレーヴェンタールはダメージコントロールを指示する。
陸の王者はまだ戦える――彼はバクリュウがタフな艦であることを知っていた。
【魚雷】
全領域艦艇は本来の意味での魚雷は装備しないが、一部の艦が搭載する両舷内蔵多連装ランチャーから発射される大型対艦ロケット弾は言語によっては"魚雷"と意訳されることがある。
これは実戦での運用方法がかつての魚雷を連想させることも関係している。
【単分離】
オリエント語では通常の分離とは区別されており、こちらは増加装甲など戦闘中に再装着できないタイプの装備をパージする行為を指す。
戦闘中でも任意に着脱できる追加装備は非常に少ないが、そのタイプの装備をパージする場合は"分離"である。
なお、他の言語では分離と単分離を区別することは基本的に無い。




