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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 1-6】過熱するテロリズム

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【45】SKYLINE

 部下の声が聞こえてから実際に手足が動くまでの間、思考している時間は全く無かった。

「ッ!?」

「隊長ッ!」

反射的に回避運動の操作を行ったコンマ数秒後、セシルのオーディールM3は激しい衝撃により体勢を崩してしまう。

着弾の瞬間に飛び散る火花しか視認できなかったスレイは上官の安否を気遣うように叫ぶ。

「くそッ! スナイパーめッ!」

セシルのオーディールは奇跡的に直撃弾を免れており、突然の狙撃に動揺すること無く機体を立て直していた。

命中弾を受けた右肩こそ装甲が完全に吹き飛ぶほどの損傷を負っているが、それ以外に目立ったダメージは確認できない。

「(俺がギリギリまで引き付けるのを待ちやがって……全く!)」

最後の最後――必中を狙える距離でようやく狙撃による援護攻撃を行った同志に悪態をきつつ、ズヴァルツは愛機フェルスタッペンを加速させ戦闘エリアからの離脱に成功する。

「隊長、これ以上の追撃は不可能です……!」

一方、オランダ軍との取り決めで行動範囲が制限されているスレイたちは既に境界線上に達しており、これより先に進むことは許されない。

スレイは駄目元でレーザーライフル(アサルトタイプ)を連射するが、素早く離脱していく珊瑚色とティールブルーのMFに蒼い光弾は届かなかった。

「……お前、スナイパーが潜んでいたことに気付いていたのか?」

スレイが急に叫ばなければ格闘攻撃の間合いに捉え切れていたかもしれない――。

責めるつもりは無かったとはいえ、こう問い質すセシルの眉間には皺が寄っていた。

「いえ……ただ、蒼いマズルフラッシュが見えたから思わず声が出て……」

それに対するスレイの回答は少し歯切れが悪く、攻撃の兆候に反応してしまったことを悔いているように感じられる。

「そうか……ありがとう」

部下の返答を聞くとセシルは一転して表情を和らげ、スレイの心情を察したのか感謝の言葉を述べる。

スレイが故意に仲間の足を引っ張る人間でないことは知っているし、狙撃を真っ先に察知できる能力はむしろ評価されるべきだからだ。

「あの、機体のダメージは大丈夫ですか?」

「右肩の装甲を掠めただけだ。もっとも、お前が叫んでいなかったら直撃弾だったかもしれないがな」

心配そうに損傷状態を尋ねてくるスレイに向けて穏やかな笑みを浮かべるセシル。

先程の攻撃は被弾時の衝撃から推測するに、おそらくレールガン用の徹甲弾。

もし直撃していたら機体の右肩が粉砕されていたことだろう。

「ゲイル2、後退してブフェーラ隊と合流するぞ。今後の方針は敵戦力の動向によって判断する」

「り、了解!」

これ以上この場に留まる必要性は薄い。

セシルは機体のマニピュレーターで合図を出し、スレイを連れて戦闘エリア中心部に戻っていくのだった。

「(スナイパーめ……次に戦う時は狙撃ポイントから引きずり出してやる!)」


 数分後、セシルとスレイは戦闘エリア内側に踏み止まっていたブフェーラ隊と合流する。

「ゲイル隊! 全く、行動範囲ギリギリまで攻めやがって!」

「ラインは越えなければいい」

親友が行動範囲を逸脱しないかとひやひやしながらレーダー画面で見ていたことを明かすリリスに対し、自分は常に"ルール"の中で戦っていたと切り返すセシル。

「……大丈夫か?」

「ああ、少々危うかったが問題無い」

無論、それは分かっているリリスにセシルを責める意図は無く、機体の損傷状態を見るなり気遣うように声を掛ける。

「敵残存戦力はどうしたの?」

「貴女方が敵エース機を追撃中に撤退し始めましたわ」

もう一つ気になるのは戦場が随分と静かになっている点だ。

それについてスレイが指摘すると、ローゼルはゲイル隊の面々が別行動中に起きていた出来事について説明する。

敵エース機――ズヴァルツのフェルスタッペンが一足先に戦線離脱した瞬間、他の敵機も頃合いを見計らったかのように撤退していったという。

「上の方から"深追いしないように"との指示もあった。こちらもそれなりに消耗しているし、従わない理由は無いだろう」

当然ながらヴァイルたちは可能な限り追撃を試みたが、オランダ軍防空司令部の指示により中途半端なタイミングで断念せざるを得なかった。

もっとも、彼女としては"戦闘中止の命令が出てくれてよかった"というのが本音であったようだが……。

「中隊長、作戦終了後は予定通りベルファストに戻るんだろ?」

リリスたちの作戦行動はこの地で終わりではない。

母艦が停泊しているイギリス・ベルファストまで無事に帰ることが作戦だ。

「北海を抜けられないほど消耗している機体がいるなら予定を変更するが……各機、懸念事項があるなら今のうちに報告しておけ」

自分以外の4機の僚機の姿を目視確認しながらセシルは機体トラブルの有無を尋ねる。

報告内容次第ではオランダ国内の空軍基地にダイバート(代替着陸)し、短距離戦術打撃群艦隊が迎えに来るまで待つ必要があるかもしれない。

「……目立ったダメージがあるのは私の機体だけか」

僚機たちの返答は沈黙。

ダメージを負っているのは不意の一撃を貰ったセシルのオーディールだけだった。

「全機、方位3-2-3に針路を向けろ! 帰りもイギリス軍の空中給油機の世話になるから、彼らをあまり待たせることはできないぞ」

自身含めて長距離飛行に支障無しと判断したセシルは針路変更を指示。

行きと同じ北海及びイギリス本土上空を通過するルートで帰路に就くのであった。


「もっと速く飛べ! お前が最後だぞ!」

ゲイル及びブフェーラ隊が撤退し始めたのと同じ頃、ズヴァルツ率いるレヴォリューショナミーMF部隊の撤退も大詰めを迎えていた。

「後ろに張り付かれてる!」

「"スカイライン"が狙撃で援護してくれる! 後ろは気にし過ぎるな!」

戦闘エリアに最後まで残っていた灰色のMF――トーチャーはオランダ空軍のMFスパイラルB型にしつこく纏わりつかれている。

離れすぎており援護できないズヴァルツはもどかしい気持ちを抑え、状況を見ながらアドバイスを送り続ける。

「頼むぞ……一人でも多く生き残らせてやってくれ」

「……用件は確かに聞き入れた」

頼みの綱は狙撃による長距離攻撃が得意なコードネーム"スカイライン"だ。

ズヴァルツの純粋な願いを聞き遂げた彼女――アイシィ・アイランドは本作戦最後となる狙撃態勢を取る。

「ファイア!」

アイシィの乗機"XREV-007 イチイバル"の主兵装は多種多様なスナイパーライフル。

今回は大気圏内でも性能が低下しにくい実体弾を発射するレールライフル――いわゆる電磁砲を選択し、彼女は冷静に右操縦桿のトリガーを引く。

「ヒット、ボディ。クリティカル」

弾着観測はリガゾルドB型に搭乗する専属バイオロイドNo.316"タップダンス・シティ"が担当し、スナイパーが攻撃だけに集中できるようサポートを行う。

蒼い電流を纏った徹甲弾はオランダ空軍のスパイラルの胴体を正確に貫いていた。

「もう一機いるぞ! このままじゃ食い付かれる!」

ピンチはまだ終わらない。

トーチャーの背後に今度は"F-35E ライトニングⅡ"戦闘機が現れ、撃墜された味方と代わるように攻撃態勢に入る。

たかがテロリスト一機も見逃すつもりが無さそうなのは、国軍としての意地だろうか。

「……ファイア!」

「うおッ!?」

敵機と味方機の位置関係を慎重に見極め、必中を期するタイミングで右操縦桿のトリガーを引くアイシィ。

彼女のイチイバルのレールライフルから放たれた一撃はトーチャーの近くを掠め、その後方を飛行していたF-35の主翼だけを正確に撃ち抜く。

「ヒット……ライトウィング」

観測手のタップダンス・シティが命中を報告した後もF-35は砕けた翼で粘っていたが、やがて真っ直ぐ飛ぶことさえ難しくなり急激に高度を落としていく。

「スナイパーにやられた! 制御不能……ベイルアウトする!」

「エネミー、ダウン」

錐揉み状態に陥る直前、F-35のキャノピーが弾け飛び空中にパラシュートが開く。

敵機のパイロットが機体を放棄したこの瞬間を以って、タップダンス・シティは初めて"撃墜"という判定を下すのだった。


 先程の一方的な交戦で怖気付いてしまったのか、オランダ軍は一時的に追撃の手を緩める。

「無理な姿勢でのベイルアウトか……脊椎をやらなきゃいいんだが」

かつてホワイトウォーターUSAに移籍した時点で事実上祖国を捨てることを選んだズヴァルツ。

しかし、彼は同胞の後輩に対する思いやりだけは捨てられなかった。

ベイルアウトは制御不能に陥った機体から脱出する手段の一つだが、それでも悪条件が重なった場合死傷するリスクは常にあるのだ。

「戦闘エリアを抜けた!」

「こっちだ! 他の連中は先に撤退させた!」

オランダ軍の勢いが弱まった隙にトーチャーは戦闘エリアを離脱。

最後の僚機をズヴァルツは自機の所へ呼び寄せ、今度は安全圏への移動を開始する。

「スカイライン、お前たちも引き揚げろ!」

もちろん、撤退支援に協力してくれたアイシィたちのことも忘れてはならない。

「了解。タップ、私たちも撤退するよ」

「了解」

アイシィのイチイバルとタップダンス・シティのリガゾルドも狙撃ポイントから素早く飛び立ち、ズヴァルツたちの部隊と合流して撤退を図る。

「(狙撃すら察知して避けるというその回避能力……噂以上、か)」

元オリエント国防空軍所属のMFドライバーであるアイシィは当然ながら"蒼い悪魔"のことを知っていた。

もっとも、敵に回した時の厄介さは想像を少しばかり上回っていたが……。

【Tips】

オリエント語では"レールガン"という単語は「物体を電磁気力で加速して撃ち出す銃火器」の総称として用いられる。

言葉としては"ピストル"や"アサルトライフル"と同じく大雑把な括り方であり、特定の兵器(アサルトライフルで言うAK-47など)を指す単語ではない。

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