【44】ライン際の駆け引き
【2026/7/17追記】
改行の形式を後半のエピソードと統一させるように修正。
初期版から文章を一部修正。
※ストーリー展開自体に変更点はありません
強敵の妨害に遭いながらも作戦目標を達成したレヴォリューショナミーは作戦エリアからの撤退を決定。
今日の戦闘でMVPと呼べるほどの活躍を見せたズヴァルツも愛機フェルスタッペンに損傷を負っており、生き残った僚機達を引き連れ戦場から離脱しようとしていた。
「("蒼い悪魔"は3機しかいなかった……今日は5機しか確認されていないらしいが、残りはどこにいる?)」
作戦遂行において最大級の脅威と見做されていた"蒼い悪魔"ことゲイル及びブフェーラ隊のうち、ズヴァルツが実際に交戦したのは後者の3機だけだった。
残りの2機――ゲイル隊は別の戦闘エリアにいるようだが、まだ一度も会敵していないのが逆に不気味だ。
「ラウ……大した援護ができなくてすまなかった」
作戦計画策定時に設定された帰還ラインへの移動が進む中、長年引き連れてきた僚機の一人が自分達の不甲斐無さを詫びる。
「いや、お前達はよくやった。オランダ軍を足止めしてくれたおかげで"蒼い悪魔"を相手取るだけで済んだからな」
一方、ズヴァルツは自ら呼び寄せた同僚たちを無能だとは全く思っていなかった。
むしろレヴォリューショナミーが本格始動する前から組織に参加し、その後も危険な最前線で共に戦ってくれていることに感謝したいほどであった。
◆
帰還ラインまであと5000メートル――。
そこを超えればレヴォリューショナミーが押さえている地域に近くなるため、オランダ軍は追撃を断念するだろう。
彼らには被害状況の確認という仕事も残されている。
「ッ! 8時方向に高速接近する敵機!」
「全機帰還ラインまで急げ!」
しかし、一部の敵はそう簡単に見逃してくれるつもりは無いらしい。
僚機の報告を受けたズヴァルツは自機のレーダー画面を確認すると、最悪の可能性も考慮し味方に迅速な撤退を促す。
「私達が担当していなかったエリアで派手に暴れてくれたようだな……!」
「逃げ切られる前に一機でも多く叩き落とす!」
帰還ライン直前まで諦めずに追撃してくる敵機の正体はやはりゲイル隊だった。
先日のアイスランド解放作戦の影響で欠員が生じているとはいえ、高性能量産機オーディールM3を駆るセシルとスレイのコンビは非常に危険だ。
「ナインチェの機体を守るように展開しろ!」
最大級の脅威が後方から迫る中、僚機達は珊瑚色とティールブルーのMFをカバーするべく自発的にフォーメーションを変更する。
「俺の盾になるつもりかッ!?」
「お前よりも長くWUSAにいたが、傭兵特有のドブ臭さを感じさせなかった同僚はお前が初めてだったからな」
自身への人望が招いた独断専行に驚くズヴァルツに対し、民間軍事会社ホワイトウォーターUSA時代からの同僚は"命を張るに値する人間だからだ"とだけ答える。
「おう! あの幹部気取りのロシア野郎とは大違いだぜ!」
また、ズヴァルツがWUSA出身者からの信頼を集めているのは、元WUSA幹部で現在レヴォリューショナミー上層部にいるロシア人が現場の面々から嫌われているというのも大きかった。
「ラウ、こいつらに命令してやってくれ。『俺を生き残らせるために動け』――と」
「……各機、俺をカバーしろ。俺に近付く敵機は死んでも止めろ」
最も仲が良い僚機のドライバーから"俺達を使え"と促されたズヴァルツは悩みに悩んだ末、あえて自己中心的で非情な命令を下すのだった。
◆
帰還ラインまであと3000メートル――。
「隊長機が逃げていく! なんてひどい奴なの!?」
「違う! 随伴機が庇うように動いているんだ!」
敵部隊の行動パターンの変化を確認したスレイは敵エース機を謗るが、随伴機の動きをよく観察していたセシルは異なる見解を述べる。
「少しでも足止めするんだ! 一秒でも動きを止めればそれなりに距離が取れる!」
「全く、レヴォリューショナミーのエースはどうして人望が篤い奴ばかりなんだ……」
無謀にも反撃を仕掛けてきた灰色のMF――トーチャーをすれ違いざまの一撃で容易く沈めつつ、レヴォリューショナミーの仲間意識の強さを愚痴るセシル。
アイスランドで戦った3人組はもちろん、それ以前のロシア北部や軌道エレベーター防衛戦で遭遇した相手も有人の僚機を多数従えていた。
「(まともな人間をも狂わせるほど、今の世界は歪んでいるとでもいうのか……!)」
これまでの武力介入の傾向から、レヴォリューショナミーは民間人を巻き込まない程度の分別は弁えていることは判明している。
正直に言えばルナサリアン戦争時の各国正規軍の方が常軌を逸していたかもしれない。
"母なる星を守る"という大義名分の下で行われた形振り構わない軍事行動、そして占領統治という名の醜いパイの奪い合いが新たな火種となった現実にセシルは唇を噛み締める。
勝者は様々な屁理屈を捏ねて敗者からあらゆるモノを奪う――結局のところ、地球人類の愚かさは異星人を巻き込むほどにまで悪化していた。
「ゲイル2、ファイア!」
「雑魚に構うな! それの相手はブフェーラ隊と友軍に任せておけばいい!」
戦闘力で言えば大したこと無いトーチャーをチマチマ潰しているスレイを咎め、自分たちでなければ届かない敵に狙いを定めるべきだと指摘するセシル。
「機動力を活かしてあのオレンジを直接叩く!」
「りょ、了解!」
エース機の存在にある程度依存しているのならば、それを優先的に撃墜することで連携を崩壊させればいい。
セシルとスレイのオーディールはフルスロットルで敵陣の強行突破を図る。
「くそッ! 俺たちのフォーメーションをスピードで切り裂くつもりか!?」
「邪魔をしないでッ!」
レヴォリューショナミーMF部隊が慌ててディフェンスラインを厚くする前にスレイはレーザーライフルを発砲。
命中弾を受けて怯んだ灰色のMFの頭上を掠めるように通過していく。
「ブフェーラ1、こちらに合流するまであとどれくらい掛かる?」
部下よりも更に効率良く敵機を捌きながらセシルはブフェーラ1――リリスに合流に要する時間を尋ねる。
「交戦で撤退ペースが落ちればすぐに追い付く!」
「随伴機の相手は任せたぞ。後方を敵機がうろつく状態での追撃戦は避けたいからな」
リリス曰く現状のペースなら敵部隊の殿には追い付けるという。
それを聞いたセシルは改めて敵エース機以外の処理を任せることにした。
「(すまない……だが、もう少し進めばこちらも撤退支援が期待できる。それまでの辛抱だ)」
一方、追われる側であるズヴァルツは非常に苦しい展開だが、決して孤立無援というわけではなかった。
◆
「(帰還ラインまであと1マイル! そろそろ援護してくれよ、"スカイライン"!)」
僚機達による決死の殿軍もあり、機体に必要以上の負担を掛けること無く帰還ライン直前まで到達できたズヴァルツ。
しかし、本当に厳しいのはここから先の"ラストワンマイル"だ。
「隊長、戦闘エリアの境界線が近付いています! エリア外に出たら国際問題ですよ!」
「だから逃げ切られる前に沈めるッ!」
スレイ達オリエント国防軍機が行動できる範囲は予め定められており、緊急時といえど設定された行動範囲を逸脱することはオランダ側とのトラブルに繋がる恐れがある。
無論、それを理解しているからこそセシルは速攻を決めるべく詰将棋のように動いてきた。
「ファイア! ファイア! ファイアッ!」
射程距離ギリギリからレーザーライフルを連射するセシルのオーディール。
彼女らしからぬ勢い任せの攻撃はタイムリミットが迫っていることを暗に示していた。
「CF散布……!」
バックパックにユニットを装着していない"ネイキッド"状態のズヴァルツのフェルスタッペンは機動力で劣っているため、残り僅かなデコイの散布などあらゆる手段を講じてラストワンマイルの突破を試みる。
「(弾切れか! ならば、格闘戦の一撃で決めるしかない!)」
連射でレーザーライフルを撃ち尽くしたセシルのオーディールは兵装をパージ。
デッドウェイトを切り離した身軽な状態で緩やかに上昇していき、急降下での加速に必要な高度を稼いでおく。
境界線手前の残り100メートル以下で珊瑚色とティールブルーのMFに食らい付くのが理想的だ。
「(ライフルをパージした? そして、ダイブで速度を稼いで接近してくる――悪いがドッグファイトに付き合うつもりは無い!)」
蒼いMFの動きをチラ見しただけで意図を察知したズヴァルツはとにかくスロットルペダルを踏み込み続ける。
少しでも速度を失えば相手に攻撃チャンスを与えてしまうことになる。
「(速度では隊長の方が圧倒的に有利だけど……でも、敵機の余裕ぶりが不気味だわ……)」
単独突出している隊長に置いていかれたスレイは後方で撃ち漏らしに備えることになったが、言葉では説明しづらい漠然とした不安を感じていた。
「ファイアッ!」
高度――つまり位置エネルギーを下降によって運動エネルギー――速度に変換しつつ、セシルのオーディールは固定式機関砲で牽制射撃を行う。
「くッ……!」
「この速度差ならばッ!」
小口径弾に反応してズヴァルツのフェルスタッペンが回避運動に入り速度を落とした瞬間、セシルは愛機オーディールを人型のノーマル形態に変形させながらビームソードを抜刀。
想定通り境界線の50メートル手前で一気に攻撃態勢に入る。
「――ッ! 隊長! 回避ッ!」
戦闘中の短時間で咄嗟に考えた段取りはほぼ完璧であった。
……突然スレイが回避運動を叫ぶまでは。
【ラストワンマイル】
MFの分野では進撃戦や撤退戦における残り距離1600m以下での駆け引きを指す。
後が無い防衛側の抵抗が激しさを増したり、逆に攻撃側がプレッシャーから小さな判断ミスを犯すなど、戦場自体の不確実性も相俟って何が起こるか分からない状況でもある。
この概念を最初に提唱したのはオリエント圏の軍隊と云われており、これらの地域では距離を置き換えたうえで他の兵科にも取り入れている。
本作を読んで面白い・良かったと感じて頂けたら、高評価・ブックマーク・感想・レビューなどをお願いします。
総合評価ポイントが増加すればランキング入りする可能性が増え、より多くの人の目に留まる機会を得ることに繋がるので……。




