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【連載中】MOBILE FORMULA 2135 -スターライガ∞ 逆襲のライラック-  作者: 天狼星リスモ(StarRaiga)
【Chapter 3-5】冬空の下、理想はすれ違う

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202/203

【199】三つ葉と鈴蘭と

 ソフィン王国南部の小村、キクズシロヤの中心部に店を構える酒場"コロネーション"――。


 この村最古にして唯一の酒場であり、林業従事者が多い村民達の憩いの場となっている。


 オリエント圏では年末休暇にあたる12月29日も珍しく通常営業しているため、まだ夕方にもかかわらず既に仕事納めを迎えた人々で賑わっていた。



「コンヴァンガイン(邪魔するぞ)」

「いらっしゃい! 後ろの人がお連れ様かい?」


 ルナサリア語訛りのオリエント語で挨拶しながら二人連れの客が入店してくる。


 彼女達のうち先頭の人物――スズランは酒場を何度か訪れており、マスターのフランケルから常連客として覚えられていた。


「ああ、私の上司だ」

「メヅキです。このお店のことはヨミヅキから聞いていたので、機会があれば訪れたいと思っておりました」


 あらかじめ電話予約でキープしておいたカウンター席に座りつつ、上着のフードを脱いだスズランはマスターにお連れ様――自身の上司にしてS.O.I.F司令のメヅキ・ナナを紹介する。


「スズさんの上司――ってことは貴女も?」

「ええ……マスターの想像通りです」


 S.O.I.Fという組織自体には詳しくないが、そこに所属するスズランがルナサリア人であることをフランケルは知っていた。


 彼女の問いに対しナナはルナサリア人特有のウサ耳をピコピコ動かしながら答える。


「ウチはマナーを守れて代金を支払えるなら、人種で客を選ぶようなことはしないよ」


 地球ではルナサリア人は"侵略者"という認識が残っており、その傾向が特に強いとされる欧米では入店拒否されるケースも珍しくない。


 だが、とても幸運なことにソフィン王国ではルナサリア人を蔑視する見方は殆ど無かった。


 カクテル作りの準備をしながら経営方針について語るフランケルもまた、ルナサリア人と地球人を平等に扱ってくれる人物であった。


「スズさんはいつものギムレットだろ? めっつ……メヅュキさんはご要望はありますかい?」


 シェイカーを置いたフランケルは最初に提供するカクテルについて確認を取る。


 ナナの名字を呼ぶ時に変な噛み方をしてしまったのは、ルナサリア人特有の"ヅキ"がオリエント語話者には少し発音しにくいためだ。


「いや、私は運転しないといけないからルートビアを頼む」


 今日は車で来店しているスズランは帰り道の運転も担当するため、酒類ではなくソフィン王国名物のオリエンティア・ルートビアを注文する。


「ナナと呼んでもらって構いませんよ。そうですね……私は先程出てきたギムレットをお願いします」


 一方、地球の食文化にあまり詳しくないナナは部下のお気に入りらしいギムレットという酒を頼むのだった。



 コロネーションのマスターであるフランケル・バーガンディーは、ソフィン王国北西部の都市リンドー出身。


 オリエント連邦や欧米でバーテンダー修行を積んでいた時、この店のオーナーからマスターとして雇われたことを機に祖国へ戻って来た。


 オーナー夫婦は原材料仕入をメインに動いているため、店自体の切り盛りを一任されているというわけだ。



「――私達に会いたいという相手がいてね。本当は我々の拠点に招きたかったが、先日の一件でそれどころじゃない」


 ソフィン王国で採れるハーブやスパイスの風味が"飲む回復薬"と揶揄されるルートビアを味わいつつ、今日この店を訪れた理由を語るスズラン。


 先日の一件とはオリエント国防軍の精鋭部隊にS.O.I.Fの主要施設を攻撃された出来事のことだ。


「なるほど、だから予約の時に個室の空きについて尋ねていたと」


 実を言うとフランケルも電話予約を受けた時点で、いつもみたく休日に同僚達と繰り出して来るのが目的ではないことを察していた。


「相手は時間厳守に定評があるオリエント人だ。そろそろ着いてくれるはずだが――」

「あ、いらっしゃい!」


 腕時計で現在時刻を確認したスズランが少し不安げに呟いたその時、ドアベルの音に気付いたフランケルは会話を中断し来店客を歓迎する。


「マスター、スティルウォーターを二つ。それと……この二人を借りてもいいかしら?」


 来店客は二人組。


 どちらも上着のフードを被っているので顔が見えにくいが、フランケルやスズラン達の所に真っ直ぐやって来るなり炭酸抜きミネラルウォーターを注文した女はオリエント人のようだ。


 それに対して後ろの女はこの辺りの生まれ育ちではないのか、まるでウサギのように周囲を警戒しているように見えた。


「(……まさか、この人達が密談の相手かい?)」

「(事情はあまり詮索しないでほしい……頼む)」


 好奇心が勝りフードの中をさり気なく覗き込んだフランケルは思わず後退あとずさりし、恐る恐るといった感じでスズランに耳打ちする。


 今日の"密談"はスズランにとっても繊細な案件らしく、彼女が申し訳無さそうに首を横に振る姿はとても珍しい。


「……分かったよ。アド、その配膳が済んだら4名様を貸し切り部屋に案内してくれ!」


 自分のような一般人が深入りしていい界隈ではないと感じたフランケルは即座に話を切り上げ、アルバイトの若者アドマイヤに接客対応を任せるのだった。



 コロネーションのようなオリエンティア式の酒場にはグループ客向けの個室が設置されていることが多い。


 部外者との接触が避けられることから古来より商談の場として利用され、オリエント圏の歴史を動かした密約のいくつかは酒場の貸し切り部屋で結ばれたと言われるほどだ。


「御用の際はそちらの呼び鈴を鳴らして下さい。では……ごゆっくりどうぞ」

「こうやって直接顔を合わせるのは初めてかしら、ヨミヅキ・スズランさん」


 アルバイトのアドマイヤが退室したのを確認すると、先程ミネラルウォーターを注文した女がフードを脱ぎながら話を切り出す。


 この部屋にいるのは関係者だけなので顔を隠す必要は無い。


「……ライラック・ラヴェンツァリ博士、レヴォリューショナミーの首脳がこんな所に何用で?」


 今回の密談を持ち掛けてきたのは相手方なのでスズランは事前情報を得ていたが、彼女はライラックの方から接触を図ってきたこと自体を訝しんでいた。


 噂では数日前までオリエント連邦国内で単独行動していたらしいが……。


「緒戦の軌道エレベーター攻撃作戦におけるバックアップは見事だったわ。今日はその腕前を見込んで頼み事に来たの」


 ライラック率いるレヴォリューショナミーとスズランが所属するS.O.I.Fには接点があった。


 遡ること約3か月前、前者が宣戦布告と同時に実行したオリエント連邦の軌道エレベーターを攻撃・占領する作戦に後者もバックアップとして参加していたのだ。


 スズランは"ルナサリアン残党のエース"という立ち位置を活かした陽動に投入され、オリエント国防軍の一部戦力を軌道エレベーターから引き離す大役を成功させた。


「現在、我々は激化する戦いに向けて戦力強化を進めている。今の同志達も頑張ってくれているけど、もっと人手が欲しいというのが本音よ」


 ライラックは遠回しに語っているが、おそらくスズランの引き抜きが目的だろう。


 少し前にもオリエント国防軍に潜入させていたスパイを帰還させるなど、戦力強化に関しては間違い無く本腰を入れていた。


「ラヴェンツァリ博士、彼女は我々にとっても重要な人材です。安易に移籍を承認するわけには……」

「……司令、条件を見て検討だけはさせてもらえないだろうか?」


 スズランを手放したくないナナは険しい表情を浮かべるが、当のスズランはむしろあらゆる選択肢の検討を望んでいた。



「――ところで、そちらの寡黙な奴は貴女の部下か?」


 レヴォリューショナミー側から渡された資料を一通り読み終えると、スズランはライラックの隣に座るルナサリア人の若者について触れる。


 彼女が言及するまで特に自己紹介等が無かったのは、単にその機会を逃したまま会話が進んでしまったためだ。


「このはドライシュヴェスター。アフリカ・ルナサリアンから合流し、我々の同志となった者よ」


 引っ込み思案なところがある当人に代わって簡単に紹介するライラック。


 若者はレヴォリューショナミーの関係者でコードネームはドイツ語で三姉妹を意味する"ドライシュヴェスター"。


 ルナサリアン残党出身者だが主流派の"皇道派"出身ではなく、以前はアフリカ大陸の残党軍に所属していたという。


「アフリカの同胞達……壊滅的な損害を被り、組織としては事実上崩壊したと聞いてましたが……」

「《ええ、その時の戦闘で私は仲間達を――そして、姉と妹を喪いました》」


 アフリカ・ルナサリアン関係者の数名と顔見知りであったナナの言葉を受け、ついにドライシュヴェスター自身が母国語で口を開く。


「私はミヅキ・ミツバ。月の旧家ミヅキ家の者です」


 ドライシュヴェスター――本名はミヅキ・ミツバ。


 アフリカ・ルナサリアンのエース部隊"月のケルベロス"の中核を成していた三姉妹の次女にして、唯一本拠地ダカールから脱出できた生き残りである。


「スズラン様、私は姉と妹の仇を討ちたいのです。そのために姉さんとの約束を破ってまでレヴォリューショナミーに移ったのです」


 ミツバにはサキモリ乗りとしての矜持や組織の思想よりも大事なモノがあった。


 それは……ダカールで戦死した姉妹の無念を晴らすことだ。


「……レヴォリューショナミー創始者の一人である、"アロマ面"を被った女の素顔を知っているか?」


 奇しくも自身と同じく"次女"であることを知ったスズランはグラスに伸ばしかけていた手を止め、ミツバに対しレヴォリューショナミー創始者の正体について話し始める。


 ちなみにアロマ面とは"下半分を切断した般若面"とよく例えられる、ルナサリアの伝統工芸品である。


「その人はな――話が本当なら私の実の姉なんだ」


 スズラン自身が地球上の戦闘で撃墜されたことで生き別れになってしまった、姉スズヤの生存説は戦後間もない頃から噂では聞いていた。


 もし、レヴォリューショナミー創始者の一人"カグヅチ"が本当にスズヤだとしたら……スズランの心は既に決まっていたのかもしれない。

【オリエンティア・ルートビア】

オリエント圏で採取できるハーブやスパイスを利用した微炭酸飲料で、かつては"飲む回復薬"の異名に恥じない健康飲料として自家生産され幅広い層に飲まれていた。


現在でもポピュラーな飲料として大手メーカーによる製品が一般店舗などで購入できるほか、ルートビアに特化した業者や飲食店のようにアレンジレシピを売りとする場合も珍しくない。


なお、アメリカで流通するルートビアのことをオリエント人は"アメリカニア・ルートビア"と呼んでおり、同じ利用目的のために似たような原材料を使って調合した偶然の一致であると考えられている。


本作を読んで面白い・良かったと感じて頂けたら、高評価・ブックマーク・感想・レビューなどをお願いします。

総合評価ポイントが増加すればランキング入りする可能性が増え、より多くの人の目に留まる機会を得ることに繋がるので……。

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