覇王とかと!(小ネタ集2)
リクエストありがとうございました!
1.王様にいらっとするリンデン
2.リンデンとクインスのらぶらぶ
3.リンデンとらぶらぶになりたいクインス
らぶらぶとは。
【01】
実は王との接触の機会は少ない。リンデンと話す暇があるならアキレアを隣に置いてイチャイチャしようともくろむのが、この美貌の王の性質だからだ。
当然そんなのに呼び立たされて楽しい話であるはずがなく、従って己の顔が歪むのは自然の摂理なのである。
まして今は、アキレアを正式に正妃に据えるための手続きに追われる最中。終着点の結婚式に向けて驀進している男が正常であるとも思えない。
何故だか付いてきたクインスが欠伸を噛み殺すのを横目に嘆息する。
「で、依頼ってのは何だ」
とはいえ話を聞かずに逃げ出したとして、どうせ王の背後に立つ筋骨隆々とした王付きの侍女が捕獲という建前で襲撃を仕掛けてくるだけだ。
嫌々ながら促したリンデンに、相変わらず偉そうな態度で視線を返した。実際偉いんだけど。
「蓬莱の玉の枝という珍品があるらしい」
「ああ、そんな御伽話あったな」
一言聞いただけで、嫌な予感メーターが上限を突破した。
そっと立ち上がろうとした肩を、いつの間にか背後に回っていた侍女に押さえられる。害意がない人間というのは警戒網から外れがちなので厄介だ。当然丸太の上腕筋に適うはずもなく、柔らかなソファに逆戻りさせられた。
男は一切を関知せず続ける。
「それほどの品でこそアキレアに相応しい。式までに用意して貰おう」
沈黙が降りた。
今度は噛み殺すだけの意義が見い出せなかったのか、クインスが大口を開けて酸素を取り込む。一応手で口を覆っているあたりで、そういえばこいつ貴族だったなと思い出す。そういう些細な気遣いすらしないのが傭兵とか戦争屋なので。
返事はどうしたと言わんばかりの目に気付いたのは、少し柔らかくなってきていた日差しを侍女に遮断されたせいだった。控えめに伸ばされた太い指が王を向いていたので。
数秒言葉を吟味する。
「もしかして私を何でも屋だとか思ってないか」
返って来たのは初めて目にするほどの驚愕だった。こぼれ落ちるかというほど見開かれた目が、未知のものを見る目でリンデンを射抜く。
薄い唇が戦慄いた。柳眉の眉が角度を厳しくする。
「まさか……違うのか!?」
「戦争屋だっちっとろうが!」
「てっきり転職をしたものだと思っていたが」
「んなこといつ表明したんだ。勝手言うな馬鹿」
「馬鹿とは何だ」
むっとした顔さえ美形は美形だった。性格が残念でさえなければ眼福であったかもしれない。中身を知っているがゆえに、外見にすら感嘆しようとは思えなかったが。
腕を組んで立腹を表した王は、常識を説くように口を開いた。
「そもそも戦争屋がアキレアの侍女を勤める方がおかしいだろうが」
「クインス、立て!」
「顔は唯一の取り柄だから止めてください!」
遺言の通り、鳩尾に拳を食い込ませた。
常識から最も遠い男から常識知らずのレッテルを貼られた不名誉は、あと三発分くらいで解消されるだろうか。
【02】
剣を飛ばした兵士の背を殴打する。地に激突する身を見送らず、振り向きざまに大振りのナイフを横薙いだ。柄尻に手を抉られた男の悲鳴が上がる。
取り落とされた刃を左手で拾い上げ、隙と見て襲い掛かった凶刃の軌道を反らす。
衝撃に痺れる腕から剣が抜けた。指が開いたそのまま、手の平の底で顎を打ち上げる。
ぐらぐらと揺れた身体が制御を失って倒れるのを見て、頭を打たないように足でバウンドさせた。適当に転がして息を吐く。
「うぐぐ、三対一ですよ、三対一……」
「言っとくが、私が特別強いんじゃなくてお前らが弱いんだからな」
「何それかっこいい、俺も言ってみたい」
「精進しろ」
「できれば、お前が弱いんじゃない、俺が強過ぎただけだって言ってみたい」
「人間、それなりに謙遜って大事だと思うぞ」
兵士の訓練に駆り出されるのは日課である。何もせずに放逐されているよりは気が楽だから文句はない。タダ飯食らいはどうにも落ち着かないので。
短い髪に手を入れると、汗で貼り付く不快な感触が伝わった。思わず顔を顰めると、近くの木陰に身を休めていたクインスが飛び出して来る。
「先輩、これ使ってください!」
「お、おお。あー、ありがとう、気が利くな」
胡乱に細まり掛けた目を、思い直して誠実に戻す。
差し出されたタオルを受け取り礼を述べると、上気した頬を俯けて恥じらうような仕草を見せた。ちらりと上目遣いにこちらを見て、抱えたバスケットをもじもじといらう。でかい図体でそんなことされると拳が疼くから自重するべきである。
「そんな……! あの、よろしければお菓子もあるんです。食べて……くれますか」
「ああ、美味いな。わざわざ作ってきてくれたのか?」
「はい。……先輩に食べて貰いたくて」
「そうか」
続く言葉が特に思い付かなかったので、尻切れトンボに口を閉ざした。
未だ転がる兵士の一人が首を傾げる。
「何の遊びですか?」
「アキレアが恋愛話にはまっててな」
「俺らにも無理矢理読ませてくるんだよなー」
「迷惑な話だ」
「そうやってノるから面白がって見せてるんだと思いますよ!」
クインスが仕掛けてくるんだから仕方があるまい。乗らないと不満そうな顔をしながらおあずけされるのだ。
てきぱきと手渡された茶を啜って息を吐く。
「そうだ、ほっぺ赤くするのに息止めてたんだけど、結構長く止まるもんだという発見をした」
「そうか、良かったな」
「リンデンさん、ほどほどにしないとまた付け入られますよ」
今のところ支障はないから、あったらまた考える。
【03】
突如背筋に走った怖気が、考える前に身体を動かした。無理矢理捻った上半身を、猛スピードで飛来した何かが掠って過ぎる。
胸当てに傷を付け、壁に深々と突き立ったのは、凶悪な形をした一本の矢だった。
「覇王、どういうつもりだ!」
「愚問である」
万が一リンデンが避けなければ、この心臓の真ん中を綺麗に射抜いていただろう。急所を守る鋼を砕き、貫通すらしていたかもしれない。
憤りのままに矢を引き抜いて振り返る。身の丈に合わぬ小振りな弓を手に、リンデンが右手に握った矢と寸分違わぬ凶器をつがえた覇王が佇んでいた。
本日の衣装には、申し訳程度のサイズの鳥の羽が生えているようにも見える。多分怒りの余り視界が明瞭ではないのだろう。普段よりフリフリしているように見えるのもまた気のせいに違いなかった。
薔薇の主を背後に付かせ仁王立つ侍女。闘神が武器を手にするのは初めて見たが、その姿に隙はない。
「矢で心臓を射ることに、意味など二つもないわ」
「てめえ……」
握った手の中で、麦粒状の矢柄が音を立てて折れた。鏃はハートのような形をしている。ひどく特徴的な自己主張の激しさが勘に障るデザインだった。
敵意を込めた視線の先で、マリーゴールドが嘲るように息を吐く。リンデンを射抜く鋭い眼光は矢の凶悪さに勝るとも劣らない。威圧に引くだけの理由は見当たらず、未だ慣れない武器に手を掛ける。
射の見本のような姿勢で覇王は言った。
「護衛騎士が恋のようなものを成就させたいと言うので協力した次第だ」
「マリーも女の子だから、キューピットになりたかったのね」
「恋だか鯉だか知らんが元凶はどこだッ!」
あっち、と主従揃って指さす先、通路を駆け出す一つの背中。
覇王の手から心臓を射抜くと評判の弓矢を奪って、全力で駆け出した。




