激突、クロルのライバル!?《決着後》
目の前に亡骸が一つ横たわっていた。
それを見て泣く者もいれば、唇を噛み締める者、無表情を貫く者、内心で笑みを浮かべる者等、皆様々な想いを抱きこの場に居た。
特にレーヴァテインの反応は顕著なものだった。
拳を強く握り、唇を血が滲むほど噛み締め亡骸を睨みつけていた。
「俺がっ、俺が今まで倒そうと思っていた奴がこんな……っ!!」
瞬間、三人の強い視線がレーヴァテインに突き刺さる。
「それ以上は……あまり言わない方がいいでござるよ? いくら貴方でも拙者達三人がかりでは分が悪いでござろう」
口調は穏やか、表情も激情のようなものは感じ取れない。あくまで穏やか。
しかし、その蒼い瞳の奥に底冷えるような暗い輝きが潜んでいた。
「へっ、望むところじゃねえの」
「……俺は城にいるセーレにこの事を伝えてくる。魔族の体はいつ腐敗が始まるか分からないからな」
そう言い、レインは亡骸の横たわる部屋を後にした。
「……チッ」
興が殺がれたようでレーヴァテインも些か落ち着きを取り戻し、その場を後にした。
リンも後に続き外へ出ようと飄々とした様子で歩み始める。
「……待つっすリンちゃん」
「……?」
彩香だけは見逃さなかった。
この場にいる竜人族達は誰も気付いておらず、亡骸に視線を向けたまま。
あるいは近くの者と言葉を交わし合っている。
リンは歪んだ口元を戻し、振り向き彩香に顔を向ける。そこにはいつもの明るい雰囲気の彼女があった。
しかし、彩香は見逃さなかった。
――何重にも幾重にも隠した殺気を。
それを危惧し、彩香はリンに思い留まるよう瞳で訴えたが、リンはあえて気付かないフリをし、レーヴァテインやレイン同様に外へと出て行った。
「こ、このままじゃレーヴァテイン様とリンちゃんが……」
彩香の頭に最悪のシナリオが浮かぶ。
今戦えば、竜人一派が魔王城の元へ戻るという話は永久に消滅しかねない。
それどころか、戦争にまで発展して……。
「魔王様……起きてください……!」
「残念じゃが……。奴の拳を何の防御も無しに受けては生きておられんじゃろうて。最善は尽くしたのじゃが……」
端で座っていた高齢の竜人族が気遣わしげに話しかけてきた。
「……分かってるっす」
「記憶喪失とはいえ戦闘の仕方さえも忘れてしまったとは……レーヴァテインも予想外であったはずじゃ。だからこそ奴は初手から全力で向かった」
「……」
「レーヴァテインはあの日以来、事あるごとに言ってきた。クロルとは必ず決着を付けてやる、その日まで俺は力を磨き続ける、と。それがこんな形で終わってしまっては……」
「……」
「すまんかったな。年寄りの話に付き合わせて。レーヴァテインには魔王の命を奪った償いは必ずさせる。だから彩香殿はゆっくり休みなされ」
「……」
こくり、と彩香は頷いた。
「魔王様……」
亡骸の胸元に顔を寄せ、静かに涙を流した。
自分の不甲斐無さを悔いるように、又は大切な者の死を悼むように涙を流した。




