セーレvs紅!? 《中編》
「魔王様には指一本たりとも触れさせません」
「ふふ、あーこわいっ」
「どうしてこうなった」
マジで。なんでこんな状況になったんだ?
「魔王様。このシャトラ・ラネーゼが魔王様に会わせろと言うもので」
シャトラ・ラネーゼ?
紅の名前? 偽名か?
「そうそう。でもこの子、クロスケくんに会わせてくれないんだもん。困っちゃうよねー」
こんな危なっかしい女、会わせなくて正解だぞセーレ。
でも結果的に会ってしまったが。
「セーレはこの女のことを知ってるのか?」
「ええ。記憶を失う前の魔王様もよくご存知です。幹部級の一人で五位の者です」
「!?」
クロルが紅と知り合い……?
というか紅は昔から魔王城をシャトラ・ラネーゼという名前で出入りしていたのか……?
「うーん。ちょっと違うかな。存在を割り込ませただけだし」
「……?」
セーレは訳がわからない、といった風だが俺には理解できた。
……なるほど。元々シャトラ・ラネーゼという奴が存在していたが、すげ替えてしまったと。
俺とクロルを入れ替えたように。
……いや、違う。
紅は“割り込ませた”と言った。
それじゃあ割り込まれた元のシャトラ・ラネーゼはどうなったんだ……?
「……うふふ。面倒だからこう、ぷちっとね」
あの笑顔。恐らく……。
相変わらずぶっ飛んだやつめ。
「よく知っている者のはずなのですが……何か、不吉な物を感じたので……」
まさか、紅のことを知らないのに、存在のすげ替えの違和感に気がついているのか……?
いや、本人も戸惑っているようだから確信には至ってないようだ。
至ってしまったら俺の正体にも気が付いてしまいそうで怖い……。
「ふーん。クロスケくんといい、キミといい、霊力が強そうなのが多いねえ」
紅が不敵な笑みを浮かべた。
唇をペロリと舐め、妖しい色香を漂わせている。
しかし、その裏ではっきりとした殺意が伝わってくる。
「……さっきから魔王様をクロスケくんクロスケくんと……」
ヤバい。セーレからまた邪悪オーラが滲み出ている!
「えー? わたし昔からクロスケくんって呼んでたよ?」
ここでセーレの表情が変わる。
「……いえ、昔は魔王様と呼んでいました。やはり、貴女はシャトラとは違う何かを感じます」
「……!?」
紅から笑顔が消えた。
少し前にも俺の霊力が高すぎ云々ってあのような表情をしていた。
あの時は危うく殺されそうだった。殺気が半端なかったし。
そして、今の紅も同じような殺気を纏わせている。
――しかし、今回ばかりは途中で止まりそうもない。それにしてもセーレすごい。俺もそのうちバレそうだ。
「存在の割り込みに使う力をケチったとはいえ、神族の力にここまで逆らえるなんてね……」
ドドドドドドドドドド!!!
そんな効果音が聞こえてきそうなくらいの迫力。
「――――ここで殺しておいた方が後々厄介にならず済むかも……ね」
低い声音で言い放った。
「それはこちらの台詞です……!」
そう言い放った後のセーレの行動は、とてつもなく迅速なものだった。
一瞬の後に距離を詰め、禍々しい気を纏った右手を勢いよく振り下ろした。
「おっと」
紅が身軽に足を動かし、右へ飛んで避ける。
振り下ろされた右手はそのまま地面へ衝突。地面を一直線に切り裂いていく。
ゴゴゴと地面が削り取られていく音に気を取られていると・・・あっという間に振り下ろされた先の地形が変わってしまった。切り裂かれた大地はまるで、紙が破かれたような有様だ。
「ど、どんなパワーだよ……」
「魔王様。本来私は武闘派ではないので今回のような事はごく稀です。速やかにお忘れください」
紅への注意を怠ることなく、俺に懇願するような視線を向けてきた。
どうやらあまり俺に戦う姿を見られたくない様子。というより、そもそも戦闘が苦手とか?
あり得るな。セーレ優しいもん。たまにドSだけど。
「キミ強いね~。この城にいる中でもあの悪魔達を除けば、二番か三番くらいなんじゃない?」
「その私の攻撃をまったく意に介さない貴方は何番なのでしょうね」
こ、こえー。も、もしかして俺はファンタジー世界の中でもトップクラスの戦闘を見ているのではないだろうか。
魔王の側近VS神
うん。中々そそるタイトルだ。
「先ほどから魔眼を発動しているのですが、一向に動きが鈍る様子がありませんね。やはり貴女は……」
「あらら。完全にばれちゃったか。かかったフリしとけばよかったかなあー」
残念そうに言うが目元は妖しげに歪められている。
「貴女、何者ですか? 私の魔眼がまったく効かない者は魔王様や勇者を始めとして、極々希少な存在だけなはずですが」
ああ。だからあの時セーレの魔眼が俺やアーシアに効かなかった……?
いや待て。俺はクロルと入れ替わっただけで魔王のチート的ステータスはなんも貰ってないぞ……。
むむむ。俺も何かしらのチート性能を身に宿しているのか……?
「やっぱりキミ、危ないな。その魔眼も相当な威力だし」
紅は右手にあの恐ろしい大鎌を召喚した。
俺の身体をことごとく切断してくれちゃったあの恐ろしい……。ぶるっ。
「まっわたしには効かないけど」
しかし、大鎌って死神が持っているイメージだけど。神様が持っていてもいいのだろうか……イメージ的な意味で。
「えーかっこよくなーい?」
さっきから一々俺の心を読みやがって……!
やめて! 俺の心の中に土足で踏み込んでこないで!!
紅は頭上で重たそうな大鎌の柄を器用にグルグルと回転させ、辺りに風をまき散らしている。こちらには風だけでなく圧倒的プレッシャーまで伝わってきやがる。
セーレは分からないが、俺では相手にならない。力量の差が歴然。そんな様をまざまざと見せつけられた気分だ。
・・・ぐっ、迫力があるな。さすがは神族といったところなのだろうか。
「えへっ」
若干、若干ビビッていると紅が俺の方へ笑みを向けていた。その笑みはいつものふざけたような、おちゃらけたような笑みではなく、少し優しげな笑みだった。
どうしてだろう――――自分でも訳が分からないが、もしも俺に母親がいたらあんな感じに微笑んでくれるんだろうか――などと思ってしまった。
「怖がらせちゃってごめんね? 今の段階ではクロスケくんには手を出すつもりはないから安心してね」
信用ならないお言葉だが、何故だが今の紅は嘘を吐いているようには見えなかった。
「魔王様にはあまり今の姿を見られたくはありませんが……」
激しい突風と共に、紅の元へ黒色のオーラのような物が収束した途端、辺り一帯を巻き込んだ大爆発を引き起こした。
「魔王様を誑かす者には、制裁を」
俺はセーレに抱きかかえられ、事なきを得た。事なきを得るどころかおっぱいの感触を得ることができた。
……あれ? 浮遊している時間が長いなと思っていたら、セーレの背中に黒い翼が生えていた!!
でも悪魔って言ってたから普通か。それでも驚いた。
「魔王様はここでお待ちを」
そう言い残し、セーレは紅の方へ向かっていった。
俺が戦わなくても何とかなりそうだ。というか戦ったらすぐ俺が魔王ではないとバレそうなのでそうでなくは困る。
さっきも実感したが、セーレは特別鋭いからな。ヒヤヒヤするぜ。
紅はやはりといったところか無傷。大鎌を携え、セーレと接近戦を演じ始めた。
お互いに手数の多い手法で攻め立て、隙の無い戦いをしている。
紅の大鎌が最小限の動きでセーレを捕えようとするが、黒のオーラを纏う右手でそれを薙ぎ払い、反撃の応酬をお見舞いする。
セーレすげえ。素手で鎌とやり合ってるぞ……。
というかメイド服で戦ってるんだもんなー。戦うメイドさんって格好良いな。
金髪を靡かせて、優雅に手刀を振るうセーレ。
紅髪を揺らし、豪快に大鎌を振るう紅。
両者共に惚れ惚れするくらいの激しく、慣れた身のこなしだ。
ん・・・?
ちょっと待て・・・今重要なことに気が付いた。
・・・二人のおっぱー揺れてね?
俺はセーレが心配なのでもう少し近くで戦いを観戦することにした。
揺れている。
ティムロス「ああ。揺れているな。まるで夏風にそよぐ風鈴のように」
揺れとる。
おっぱーが。
俺が内なる息子と対話に勤しんでいる頃、眼前では壮絶な戦いが繰り広げられていた。
序盤は手数で攻めていた二人だが、中盤に差し掛かるに連れ、大技も惜しみなく使うようになってきた。
とはいえ、紅は依然として大鎌を振り回すだけ。それだけでセーレの真っ黒オーラの大爆撃攻撃を受け流していた。
しばらく均衡状態が続いたのだがしかし、そう長くは続かなかった。
次第に均衡は崩れ始める。
紅がセーレを圧倒し始めた。
「くっ……」
「そんなに魔力放出ばっかしてちゃバテちゃうよねー」
マ、マズイ……。
自分が繰り出す攻撃の尽くが効かない。
そんな状況では神経をすり減らして消耗してしまうのは確実。
徐々にだが、確実にセーレは追い詰められていた。
このままではセーレはやられる。でも、俺に何が出来る? あんなラスボス級の奴らに俺が介入しても邪魔になるだけだ。
まだ神器も持たない俺では戦闘の術がない。
くそ、地球でもう少し努力しておくんだったぜ。
――――いや、地球での生活を今悔いても仕方無い。今、この場で何を出来るかを考えるべきだ。
「ふふ」
自然と笑みが零れてくる。
まだ出会って少ししか経っていない奴の、しかも人間でもない女のために必死こいて考え事をしているなんてな。
まあ可愛い女の苦しんでいる姿なんて見たくないしな。俺は俺の下心の為に突っ走る。それだけだ。
それだけは昔から変わってないつもりだ。
どうしようもない奴だ。まったく。
こんな奴をこれから支えていくんだぜ?
同情するぜ、セーレ。
でも近いうちにお前は俺の正体に気がつくかもな。
それまでの付き合いだがよろしく頼むぜ? クロルより迷惑かけるかもな。
だけど、今回はそんな不憫な女へのせめてもの償いとして――――
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッシャアアアアアアアアア!!!!!」
溢れんばかりの雄叫びを上げ、俺は二人の間に向かい走り出す!!
走り出したのは良かった!!よくやった俺!!!
しかし、運の悪いことに。
丁度、セーレの手刀と紅の大鎌がぶつかり合うという局面だった。
手刀が俺の脇腹へ、大鎌が俺の首をすっ刎ねるビジョンが飛び込んできた。
\(^o^)/
/(^o^)\
\(^o^)/オワタ
だが諦めないッッッ!
俺は松岡修造並の気合を発揮し、超スピードで動く大鎌の柄をガッチリと掴むことに全意識を集中させた。
襲い掛かる大鎌。俺はその柄が描く延長線上に手を差し出すようにして、握力に気合を入れた。
不思議とスローモーションのように、ゆっくりとした映像を見ているようだった。
出たとこ勝負で突っ込んだ俺が言えることじゃないが、あの超スピードの大鎌を受け止めるなんて、普通じゃ無理だ。
火事場のクソ力というやつなのか、極限状態の俺の動体視力がパワーアップしたのかは知らんが、俺に普通じゃない事が起こってくれたらしく、とにかく――――捉えることができた。
「なっ……!?」
「ま、魔王様!?」
二人とも驚愕している様子。してやったりだな。
両手で大鎌の柄をガッチリと掴み、紅の動きを封じてやった。
セーレは唖然とした風で攻撃の手を休めてしまったようだが。
「くっ……こらっ……クロスケくん……離し……なさい……!」
何だか興奮してきたんだが……?
というか普段色々やり込められているから反撃のチャンスなんじゃないか……?
「……んっ……は、早く……離し……なさい……!」
「興奮してきたんだが……?」
くそ、お前が離しやがれ……!!
ここが正念場だ……!! 負けられねえっ……!!
「ク、クロスケくん……心の中の台詞とごっちゃになって……!」
あ、ホントだ。口に出して言おうと思っていた台詞と心の台詞が逆になってたわ。
そういえばセーレの視線が痛いわ。あはは。
だがしかし……!!
攻められている女を見るのも悪くないな。
俺は悟った。
最近、俺は攻められてばっかだったので、もしかしてMでは? という疑問に悩まされることも多くあった。
だがしかし……!!
「くう……っ……離し……て……」
「ククク……!」
漲る……漲るぞッ!!!
男が古来から望んでいた黒き欲望ッ!
女を負かし、蹂躙し、服従させ、食らうッ!!!
これこそが男たる原点ッ!!!
そして魔の頂点である黒き魔王に相応しき
「えいっ」
「あふんっ!!」
――――鈍痛。
男性諸君なら分かるだろう。ある場所を思いっきり蹴られた男が――――どういう末路を辿るか。
ティムロス「あ、死んだ」
「グオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!」
痛みに耐える為、俺は柄をこれまで以上に思いっきり掴み、悲痛の雄叫びを上げた。
あ、叫んだら余計響く。
俺はその場に倒れ伏した。
その横には真っ二つとなって折れた大鎌の柄もあった。
「そ、そんなっ……!?」
俺がうずくまって必死に鈍痛と闘っている中、一堂が驚愕に包まれる。
特に驚き、狼狽しているのは大鎌の所有者である紅。
「この鎌は神族の造り出したものなのにどうして……」
あれ、もしかして……とてつもなくマズイことをやらかしてしまいましたか俺?
セーレも警戒を強め、うずくまっている俺の傍に寄ってくる。
俺を何としても守るという気迫が伝わってきてとても心強い。
「魔王様、私の傍を離れないでください。足手まといかもしれませんが、お守りさせて頂きます」
どうやら紅の大鎌を先ほど力んだ時に折ってしまったおかげで、俺の実力が疑われずに済んだようだ。ふう。
でも力んだせいで余計痛むけどね。ううう。
…………。
場に緊張した空気が流れる。
紅は口を閉ざし、何か考え事をしているようだ。
……じんじん痛む。ぐうううう。
「……クロスケくん」
しばらく痛みに耐えていると、紅は徐に俺に向けて言葉を発してきた。
……ごくり。
俺に下される審判はいかに……!
普通に殺されるのか……それとも、地獄に落とされ永遠と働かされるのか……逞しいお兄さん方にアッーなことをされるのか……と、恐ろしい想像が俺の中で膨らみ続ける。
奴のお気に入りの大鎌を壊したのだ。
少なくとも、ろくなことにはならない。
「わたしもここに住んでもいいかな? ダメって言っても住むけど」
ほえ?
「わたしがここに来た理由ってぶっちゃけ暇だってのと、クロスケくんがどんな生活してるのかなーって気になったからなんだ。神の間から覗くだけじゃ限界があるからね」
「それがなぜ、ここに住むという理由に……?」
「なんか楽しそうじゃない?」
はあああああああああ???
「……なっ…………!?」
「ああ、忘れてた」
そう言って、紅が消える。
さっきまでのスピードが嘘のような疾さ……っ。
「……あっ」
セーレが倒れた。
「この子にはちょっと強力な暗示をかけないと」
「ちょ……!? セーレに何してるん……!?」
一緒に住む発言に驚愕していたセーレの背後に周り、一瞬の内に気絶させた紅は、額に手を当て怪しげなことをし始めた。
「この子さ、わたしの秘密に気が付いたじゃない? さすがに神族とは思ってないだろうけど。でもわたしがここに住む上で色々と面倒だから記憶改竄とか暗示とかしちゃおっかなーって。えへっ」
え? 何ルンルン気分でそんな物騒な言葉言っちゃってんの?
頭イッちゃてんの?
「調子乗ってるとクロスケくんの頭にも暗示かけちゃうぞ? 見る物全てがグロテスクな臓物に見えるような暗示をっ」
それなんて沙耶の唄?




