どうしてこうなったⅢ
箱推し・最推し・同担拒否etc。
オタク活動を表現する上で割と必須な単語群。
熱をあげている人ほど、真剣に行動している人ほど熱狂的或いは狂信的になっていく。
悪いことじゃない。需要があり、供給もあるのだから。
ただまぁ、一線を軽く越える人になっちゃ駄目だけどね。
――さて。
話は変わるけど、人生ってほとんどが運ゲーだと思う。
入った学校の先輩がどんな人かだなんてわからないし、入社した環境も分からない。
生まれ育った環境も、生んでくれた親も。
成長するに従って自分で舵をとれるけど、それでも何が切っ掛けでどう変わるかなんて予測できない。
と、こんな風に語っている僕は一体誰なんだと言われる頃合いだろうからこのまま自己紹介すると。
「林田邦彦です。中学時代は親の都合で中部地方で過ごしていましたが、生まれはここです。趣味は読書と料理です。宜しくお願いします」
クラスメイトにそう言って頭を下げ、席に座る。
入学式。
戻ってきた地元に、昔からある私立松向学園。小学校の頃でも結構有名で、滅茶苦茶有名な人が通っていることを知っているからか、憧れが多分にあるこの学校に昔は入学したいと思っていたけれど。
じゃぁなんで入学したのかと聞かれると、僕自身が決めたわけじゃないから。
高校の進学位自分で決めるべきなんだけど、戻るにあたって書類の申込期限がぎりぎり間に合ったのがここしかなかった。
どれだけ遅くに申し込み決めたんだよと言われるだろうから説明しておくと、此処に戻ることが確定したのが一月末。そこから学校を探す必要性が出てきたから色々探し回ってここしかなかった。
高校生なら一人暮らしも選択肢に入るのではと考える人もいるだろうけど、僕としてはまだ一人暮らしする勇気がない。
なので親と一緒に戻ってきた。そして高校もここに応募した。
ちなみに入試は難しかった。私立だし。有名人も一緒にいるだろうから当然なのだろう。
合格できたのは素直に喜ばしい事なんだけど……微妙。
なぜかというと……。
「はぁ……」
「おいおい入学初日でため息なんてどうしたどうした? みんな交流してるっていうのに一人で椅子から離れないし」
「あ、風馬君。君の方こそ少数派の僕に話しかけるなんてどうしたの?」
「親切心だよ親切心。結構警戒してるみたいだけど、そんなに怯えていたら折角の高校生活も苦しいんじゃないのかと思って」
「……随分ずけずけと言ってくるね」
当たっていたので皮肉っぽく返したところ、「子供の頃からの悪い癖なんだよな~」と頭の後ろで手を組んで笑いながら答えた。
憎めない人なんだろうなとイメージづけた僕は、「ちょっと小学校の頃やらかしてね。そのせいで警戒してるんだよ」と少しだけ正直に話す。
「ふ~ん……邦彦ってさ」
「いきなり呼び捨てなんて距離の詰め方バグってない?」
「呼び捨てなんて俺が信用できると思ったやつにしかする気ねぇよ……で、そのやらかしってさ、どっかのアイドルグループと関係ある?」
「!!?」
いきなりノーガードで殴られた情報に対し、目を見開いてガン見するだけなのは一種の防衛本能が働いたおかげだろうか。これで椅子とか倒したり机叩いたりしたら注目の的だ。
一体何で知っているんだとか、なんで今それを言ったのかとか頭を駆け巡っていると、張本人――風馬才人は笑みを深くしていた。まるで何か大物が釣れたかのような喜色の釣り人の目をして。
「本物かよ」
「マスコミかなんか? 高校生の頃からゴシップに手を出してるとかクソみたいな神経してるね」
「おおっとカウンターの罵詈雑言がえぐいえぐい。容赦なさすぎるぜ」
「人の神経逆撫で平気でするマスゴミに容赦、いる?」
「う~わ、マジか。己龍とまた違ったタイプの真面目君か。こりゃ俺の観察眼もまだまだだな。また絞られる」
「こってり絞られなよ。そしてもう二度と関わらないで欲しい」
「わりぃわりぃ。でも、ここで邦彦と関係を維持できないと俺の名前が廃るから」
「廃れれば?」
「食い気味かよ!?」
大層驚いているが、今のは演技。本当は周りから注目を浴びて僕をパニックにさせて有耶無耶にする気なのだろう。
大体の人がする下手な芝居を打たれた僕に残された道は流されるか、孤立するか。
実際注目を浴びているのが分かる。多分女子の方が多い。そして風馬――君付けはしない――は僕が流されるのを待っている。
なら――。
「本気で君の名が廃れるのを願えばそりゃね」
「……マジで?」
「うん」
自信満々に続け、呆気にとられた彼を尻目に立ち上がり、笑顔を――その意見を後押しするかのように――見せて教室を出ることにした。
確か風馬の奴上流階級の人だからこれからいじめの対象にでもされるかな。
そんなことを考えながら、普通に。
……僕がこの学校の入学を素直に喜べない理由がある。それは風馬才人から遠回しに指摘された事。
この学校に在籍している、現在大人気トップアイドルグループであり実の姉妹である彼女達と昔馴染みであり、彼女たちがここまで上り詰める原因を作った一因であり、小学生という自慢したい年頃で彼女たちにやらかしてしまったことが心に巣くっているからだ。
「はぁ……」
校舎裏。教室から出た僕はそこで壁にもたれて座り込んでいた。
実際今日やることはすべて終わっているから後は帰るだけ。だけど、すぐに帰る気が湧かない。
「どうしよう……」
両親は見に来ていない。僕に弟も妹も姉も兄もいないから誰の帰りを待つ必要も先に帰る必要もない。
またしばらくこのままでいいかなとぼんやり空を眺めていると、「ひぃっ!」と情けない声が聞こえた。
「?」
思わず辺りを見渡してみるけど誰かがいる様子がない。よほどの武芸の達人か、影が薄い人でもいるのだろうか。
そう声の正体について結論付けながら、風馬才人の正体について推測する。
彼がマスコミ関係者の子供だという線はなくなった。必要以上に騒ぎ立てていないというのがその要因だけど。
でも自己紹介で上流階級っぽい事言ってたから入学者の事前情報を集めていたのではないだろうか。つながりがあるだろうから一般人だけに絞れば誰だって出来るんじゃないだろうか。
そこまで念入りに準備する理由って何だろう。高校生活を楽しみたいなら何も知らなければ発見もあるだろうに。それに、この高校の合格基準厳しいからある程度人格は保証されているはずなのに。
そんな風に空を眺めながら考えを広げていると、「いやーさっきは参ったぜ」と先程と変わらない声色が聞こえた。
声の主へ振り向くと、風馬が先程と変わらない飄々とした笑顔でこちらに来た。
直ぐに視線を戻して視界から消したけど。
そんな態度を見た彼は苦笑しながら「さっきは悪かったな。本当に」と真面目口調で謝罪した。
「本当だよ。お陰様で明日から学校に行くのが億劫になった」
「俺もだ」
予想外の言葉に視線を向ける。彼はいつの間にか隣に座っており、盛大に息を吐いていた。
「どうしたのさ」
「他の奴らに邦彦とのやり取り見られてるからな。俺の思惑を知った上で、自分の結果を受け入れてああ言われたんじゃ、情報屋の跡取りとして、ちょっと立場が違う人間として面目丸潰れだっつの」
暫く話のネタにされるぜ……。何て呟いている彼に一矢報いたんだと思いながら、吐き出された情報の重要性を認識した僕は、それでもこう言った。
「ざまぁないね」
「くそがよぉ! 初日から浮いてた奴に言われたかねぇ!」
「話しかけてきたのそっちじゃん。暴露したのもそっち。僕からは逆ギレ位しか怒られる謂われないと思うけど?」
とにかく反論すると、彼はついに黙った。負けを認めたのだろうか。それともまた反撃してくるのか。
どっちともとれる沈黙だなぁと思っていると、「……ひとつ訊いて良いか?」と真顔で質問してきた。
「調べれば分かる人間だけど?」
「学園全員の情報はある。でもよ、データ化された情報じゃ、全部を知らねぇ。さっきみたいに冷静に反論されたりとかするしな。だから、データ化されていない生きた情報が必要になる」
「それ集めるのにあんな体当たりしたら、いずれ刺されるよ」
「手厳しいこって。で、教えてくれるのか?」
何を。何てことを問う必要はない。訊かれていることはもうでているのだから。
どうしようかなと思案する時に、何故か彼を許していることに気づく。
……まぁ良いか。何となく踏ん切り着いたし。
「良いよ別に」
「マジで?」
「その代わりさ、贖罪にちょっと付き合ってよ」
「彼女達ならまだ学校にいるぜ」
「その情報が報酬代わりかな……子供の頃からなんだよね、他人の感情が見え隠れするの」
「は? なにそれやば」
「言ってることや浮かべている表情と一致してる人は分かりやすいんだけどさ、大半が滅茶苦茶じゃん。誰に言えるわけでもないし、指摘したら気味悪がられたから最近までやってなかったんだよね」
「はーなるほど。俺達の世界には結構重要なタイプだな」
納得してくれたようなので僕は立ち上がり、「それじゃ才人、案内してよ」と用件を終わらせるために彼に言う。
すると彼は呆れていた。
「逃げようとしてたのに今度は正面切って会いに行くって、行動力あり過ぎだろうが」
「どんな結果になるにせよ、此処に入学した時点で逃げられないのは自明だったんだ。残りの高校生活の方針を考えるなら今の方が簡単だなって、ここにいる間思ってね」
「切り替えの早さといい、特殊能力といい、物怖じしない性格といい、本当なんでお前みたいな一般人が時折現れるんだろうな? ……まぁいいや。案内してやるよ。丁度三人で話してるだろうし」
「ああそれと。この後に起こった出来事に関しては、生涯の秘密と情報操作お願いね」
「おう……おう?」
結果として全治二週間の怪我を負って入院した。




