197 双子のリリーズは電子双子の夢を見るか(なんだそりゃ)
キッスの途中で涙がこぼれてしまうー。
あっちの華怜の身体が完全に消失し、こっちの華怜の肉体へと完全に同化を終えた時、室内を支配していた微かな衣服の摩擦音は途絶えた。残されたのは、こっちの華怜の肌に残る僅かな熱量と、静まり返った事務室の空気のみ。
隣の部屋から流れていた『デイジー・ベル』の旋律が管楽器のノイズを最後に停止すると、交番内は急速に静寂に包まれた。外からの断続的な銃声も、いつの間にか小さくなり、やがて完全に消失していた。
「どんなときも♪」
こっちの華怜はゆっくりと自身の両手を見つめた。指先の感覚、皮膚の質感、どれをとっても先ほどまでと変わらない「自身のもの」であったが、体内には明らかに自分ではないもう一つの意識の残滓が、均一に混ざり合っている感覚があった。
「ふたりじゃなきゃダメなの♪」
それは拒絶反応を引き起こすことなく、細胞の隅々にまで定着していた。事務机の上のパソコンの画面が、不規則に明滅を始める。ディスプレイには、並行世界の座標を示すと思われる複雑な数値データと、それに伴うエラーログが高速でスクロール表示されていたが、やがて一際強い発光と共に画面が暗転し、システムが完全にシャットダウンした。この世界における「不確定要素」の排除が完了したことを示す、物理的な結果であった。
「けんかしても♪」
ドアの向こうから、複数の足音が近づいてくる。外の世界がすでに自分の与り知らぬ、ヌイグルミ惑星となっていることをこっちの華怜まだ知らない。
「ふたりじゃなきゃだめなの♪」
華怜は涙の跡を手の甲で拭い、立ち上がった。自身の内側にある「アイドルになりたかったもう一人の自分」の記憶と意思を静かに内包したまま、正面の扉へと歩を進める。
「殺し屋の店」第2シーズンスタートだー!




