190 デイジー・ベル再び
クマクマーオンパレード。クマのこと書いてるの大好きかも。
「なんだこの状況はっ!」
毒島伽緒子はぬいぐるみとの再会に歓喜しつつ、おっさんの大怪我に悲しむという、情緒が不安定な状態である。無窮丸文子はと言うとこちらもヌイグルミとの再会で呆けてしまい、まったく使い物になっていなかった。で、突然現れた二人の高校生ほどの少女と、おっきいヌイグルミとちっさいヌイグルミが交番内を駆け回る様相は、直情型で融通の利かないーー見たものしか信じないーー宵闇の許容範囲をとっくの昔に逸脱していた。というわけで先ほどの雄叫びと相成った。
宵闇の心からの叫び声はまるっと頼子と連に無視された。
「クマッ」
楽団のちっさいクマが頼子ちゃんに合図を送る。
「オッケー! 交番のトレース完了ね
そんじゃ移動開始っ!」
「「えっ、何処へ?」」
無窮丸文子と毒島伽緒子は声を揃えた。
それを聞いた頼子ちゃんが二人を見て
「夢と希望でいっぱいのヌイグルミ惑星さっ!」
と、ニカッと笑った。
その言葉を合図にチーキーベア楽団がいっせいに楽器を吹き鳴らす。
「『デイジー・ベル』!」
デイジー、デイジー♪が反復する。交番内に音が満たされていく。
「HAL9000の赤い目玉はたまらなくセクシーだったのよねえ」
鈴鹿連がにんまりと笑う。
「でもなんで世界の移動のきっかけが『デイジー・ベル』なの?」
鈴鹿連に問われた取手頼子は、直ぐに返答できなかった。
「あれ、そう言われれば、なんでだろう? チーキーズが勝手に始めたからね。私もなんで『デイジー・ベル』なのかは知らないなあ。というか気にしたことないよ。そう言うもんなんだと思ってた」
そんな話をしているうちに、華々しい『デイジー・ベル』の演奏が終了し、交番の入り口の割れた窓ガラスの向こうに、遊園地と見まがうようなヌイグルミ惑星の姿が映し出されていた。
「転送成功!」
頼子が大声で歓声を上げる。それに呼応してチーキーズが大騒ぎする。
「はぁっ?」
宵闇の声に呼応するかのように、交番の四方の壁がばたんと外向きに倒れた。
「鳩が出ますよー」
鈴鹿連が陽気に呼応する。
「なんだこりゃ、なあ無窮丸っ」
無窮丸文子は相変わらず呆けていて使い物にならない状態を継続中であった。宵闇は自分のキャパシティーを越えた出来事の連続に、自分の思考が追い付いていないことを自覚する。自覚はしたが、どうしてよいのかわからない。それで助けを乞う形で理論派の無窮丸を見たのだけど、無駄だった次第。
おっさんの胸の上で踊っていたクマの許に、もう一匹そっくりなクマが駆け寄っていく。
もう一匹が頼子の顔を覗き込んだ後、連の顔を見上げる。
「ほんとに良いのね?」
鈴鹿連の問いかけに、もう一匹のクマは大きく頷く。
なぜだか笑っているように宵闇には見えた。
黒澤清の新作「黒牢城」鑑賞。日本史は詳しくないので、ぼんやりとした歴史知識で観たけど、面白かったなあ。きっと推理ミステリだと思ってみた人には面白くなかったのではないかとも思った。長回しが最高過ぎて、テンションが上がった。




