186 ひゆうひゆうからの連想ってひどくないかと毒島伽緒子は思った
八雲端末エピソード前の小さな出来事のはずだったのだがなあ。なんか大事になってる。
コピペ失敗してたので修正した。
宵闇と無窮丸がSIG SAUER P230JPを構えて応戦する。
師匠を負傷させたエスカレーターを下ってきた黒スーツは宵闇によって撃退された。交番入口から見えない位置に幾人かの黒スーツの気配がある。散発的に銃撃があり、交番の入り口周辺は銃創によってベコベコになってきていた。
SIG社の拳銃は欧米人向けに設計されているため、グリップはゴツめに作られていて、日本人の小さな掌では握り込むことができない。それを解消したのが日本人の身体を考慮して、小型軽量なうえ、グリップを細身にしたものがSIG SAUER P230JPである。アウトローなイメージが強い公安だが、意外にも律儀に日本警察制式採用自動拳銃を使っていたりする。無窮丸文子は機能面からSIGを選択したが、宵闇はデザインがかっこいいからSIGを選択した。非常に男の子な理由である。
「これ、ひゅー、これ『高瀬舟』、ひゅう……だな」
呑気を装う師匠がまた軽口をたたく。
毒島伽緒子が師匠を引っ張る。毒島伽緒子の履くGrandsのもこもこ部分が真っ赤に染まり、ぬるぬる滑り、なかなか師匠を遮蔽物の内側へ運ぶことができないでいた。
「何言ってるかわかんないよー」
毒島伽緒子は涙目になりながら、引っ張り続ける。
「森鴎外のひゅう『高瀬舟』。自殺し損ねた弟がひゆう……まさに今の俺。ひゆう」
「もうもうもうもうっ! 師匠は黙っててよー、あ、だめだよー 黙ったら死んでもわかんないからっ」
ようやく少しだけ師匠の身体が動いた。師匠の真上では宵闇が応戦している。
黒スーツが撃った弾丸が、入口から見えている師匠の脚を撃ち抜いた。
「いたたっ!」
「もうもうもうっ、師匠なにやってるんだよーっ 香港アクション映画あるあるだよー」
『高瀬舟』で香港アクション映画で盛りだくさんだなあと、朧な意識で師匠は思う。いやいや、まだ死にたくないなあ。でも身体いうこと聞かないぞ。ひゆうとか息洩れてるし。
などと考えていると、突然目の前に少女の顔が現れた。突然現れた少女の姿に、毒島伽緒子も驚きすぎて体を硬直させた。師匠と少女の目と目が合う。少女はにんまりと笑う。
「この洩れる息はさながら『息をいたす度に、創口でひゆう/\と云ふ音がいたすだけでございます。』状態だなあ、とか思ってるでしょ?」
師匠は怪訝な顔をしながらも頷く。
「ほうら、私の方が正解だったでしょ? 頼子ちゃん」
「『高瀬舟』なんて中学校の国語以来だっての」
両脇にクマのヌイグルミを抱いた取手頼子が、鈴鹿連に退屈そうに答える。
「なに? なになになに?」
硬直の解けた毒島伽緒子が小さくつぶやいた。
「驚かせてごめんね。あなたはシナチクのご主人ね」
鈴鹿連が毒島伽緒子を指差す。すると取手頼子が右手に抱えていたクマのヌイグルミを差し出した。毒島伽緒子は茫然としながらクマのヌイグルミを受け取った。
鈴鹿連は今度は無窮丸文子を視線に捉えた。
「そいでもってあなたがペコ郎のご主人ね」
再び鈴鹿連が無窮丸文子を指差す。取手頼子が左手に抱えていたクマのヌイグルミを差し出した。銃撃を止めた無窮丸文子がクマのヌイグルミを受け取る。
すっかり昔に別れたはずのクマのヌイグルミが自分の腕の中に居る。しかもうごうごと蠢いて、自分をつぶらな瞳で見上げている。
「なんだこの状況はっ!」
宵闇が声を荒げる。宵闇の目の前には入口を敵から守るように、巨大なクマのヌイグルミが立っていたのである。その足許ではチーキーベアの集団が、手に手に楽器を持って演奏をしているではないか。
ずんた ずんた ずんたった ずんた。
なんだかどこかで聴いたような聴いたことがいないような、懐かしい感じの行進曲が流れてくる。
耳に心地よいねえ。師匠は気絶した。
「殺し屋たちの店」の第2シーズンがもう間もなくスタートですなあ。楽しみですなあ。




