180 ふみちゃんとカオちゃん
あっちが狙われたなら、こっちも狙われるよね。
2026/05/18 アクションシーンを少し修正。
「待ってる間なんにもしないのももったいないので」
そう言って、こっちの華怜がしたたかにアイドル活動(といっても街頭でカラオケ歌ってるだけなんだけどな)に勤しむ中。
「ふみちゃんのところは保護&送還?」
毒島伽緒子が無窮丸文子に昨日何食べた? 的な軽さで尋ねる。
「え? ああ、まあ、とりあえず保護かなあ」
やりづらい。こんな若い娘とは職質以外で話すことはないので、どうリアクションしていいのか皆目わからない。
「ふーん。うちは保護だよ。昔々、賀茂忠行って陰陽師がいて、自称その末裔って言い張る加茂さんからの依頼だよ」
「ああ、アベンジャーズ気違い」
「あのおじさん、有名なんだ」
「マーベルのヒーローチームみたいなのを作ろうとしたのに、ヘルボーイの超常現象捜査局(B.P.R.D.)になっちゃったのよね」
基本的にこちらの世界に迷い込んできた人間は、魔改造カミオカンデで元居た世界へお帰り頂くことになっている。その中でも帰すに帰せない特例は幾人かいて、その人たちの仮の住まいとして、加茂に一時的(という名の恒久的な)保護の依頼を出すことはあった。変な能力持っていても、混じり者という言い訳はできるわけだしね。
「あなたのお師匠さんも一時あそこに居たんでしょ?」
毒島伽緒子が一拍遅れて、頸を傾げる。
こてん。
「へー、知らなかったよー。師匠は昔の話はしてくれないからなあ」
毒島伽緒子が少し寂しそうにつぶやく。そんな仕草に無窮丸文子は少しときめいたりしている。
「あたしのお父さん亡くなった時に、師匠にいろいろ助けてもらったんだ」
毒島伽緒子が前後に身体を揺らしながら呟く。子供っぽいリアクションをする。なんだろう。この娘は可愛らしいなあ。
「へー」
あの事件だ。異界からの帰還者は監視対象である。その監視対象が関係した事件として、毒島重工の後継者争いが発端の殺人事件は無窮丸も記憶していた。あの事件の忘れ形見か。
こっちの華怜が松任谷由実の「翳りゆく部屋」を謡っている。そこそこ旨い。アイドルで行けそうって錯覚するのもわかるな。無窮丸文子は思う。成れると思って精進して、夢がかなう娘は如何ほど居るのか。可能性は低いが夢はなかなか諦めきれるものではない。そこに齧りつくのか、見切りをつけるのか。その判断が生き方の道筋を左右する。こっちの華怜は諦めてはいない。
ごきん、とマイクが地面に投げ出され、ハウリングと共に奇妙な金属音を上げる。
こっちの華怜が黒スーツに連れ去られようとしている。無窮丸文子と毒島伽緒子の動きは早かった。
華怜に近づこうとする無窮丸文子を黒スーツが阻み殴り掛かる。その拳を捉えた無窮丸文子は身体を入れ替えると八極拳の定番技である貼山靠を突き入れる。無窮丸文子の肩口が見事に黒スーツの鳩尾を捉える。黒スーツをそのまま数メートル後方へ弾き出されてしまう。打ち所が悪く、男は脳震盪を起こしてしばらく動けなくなっていた。
毒島伽緒子はと言えば、こっちの華怜の腕を掴み無理矢理連れていこうとしていた黒スーツに肉薄していた。黒スーツの腕に前蹴りを極める。女宇宙刑事アニーのごとき華麗なる蹴りである。男は華怜の腕を離してしまう。黒スーツの男は自分の腕を蹴り上げた対象、毒島伽緒子へ向き直る。黒スーツが自分のターンだとばかりに攻撃に転じかけたのだが。
毒島伽緒子は流れるような動きでその場で飛び上がった。黒スーツの頭を太腿で挟み込み、そのままバク転の形をとる。男はそのまま脳天を歩道に打ち付けて昏倒してしまう。
アメリカのプロレスラー、スコット・スタイナーのオリジナル技・フランケンシュタイナーである。
「ふみちゃん、こっちのは確保!」
「OK、カオちゃん、よくやった!」
「ちょっとおー、私の名前の略し方あー、『こっちの』はやめてよう」
こっちの華怜が抗議をする横で、毒島伽緒子がきょとんとしている。自分を指差し、無窮丸文子を見つめる。
「カオちゃん? カオちゃんってあたし?」
「うん、いやあ、なんとなく」
無窮丸文子が照れながら、にっと歯を見せて笑った。
宇宙刑事ギャバンの大葉健二が亡くなり、そんでもって佐藤竜雄が亡くなった。大葉健二が亡くなったのもショックではあったのだけど、やっぱり佐藤竜雄が一番ショックであったわけで。なんとも言葉にできない気持ちに襲われまして。どうにもしようがないし、気持ちの持っていきようがない。もうもう、学園戦記ムリョウを観直そう。




