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ヒルコの娘は常世と幽世の狭間で輪舞を踊る  作者: 加藤岡拇指
師匠と私 ミラクル☆ガールズ
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174 薄皮饅頭の中身は餡子であって、けして舟和の餡子玉ではない

師匠と宵闇クンはもっと仲悪いと思ってた。

「饅頭を饅頭たらしめているものは何だと思う?」

「ああっ、饅頭って真ん中に餡子が入っているあれだろ。うーん、皮か」

「そうだな。薄皮饅頭なんかはその薄皮でコーティングされているから、饅頭であると認識できる。薄皮がないとどうなる?」

「うーん、おっさんさあ、話が視えないよ」

「こっちの華怜とあっちの華怜の話だよ」

華怜のアパートへと向かう道すがら、師匠と宵闇貴彦は珍妙な問答をしていた。

「薄皮が無くって、餡子だけだったら、くっついて混ざってしまうんじゃねえの?」

「パラレルな世界ってのは、薄皮で守られた餡子と一緒でさ、薄皮で包まれているから、それは世界だと主張できるわけだ。薄皮がないと他の世界と融合してしまう。同じ餡子だから混ざってしまったらもう、区別はつかないし、分けることもできなくなる」

「……へえ、じゃあ何かい。その薄皮が破れたら、こっちの華怜とあっちの華怜が、ボウルの中の餡子みたいにコネられて一つになっちまうってのか?」

宵闇貴彦は顔を顰め、指先でねるねると空を切った。宵闇貴彦は『TOGETHER トゥギャザー』や『群体cCOLONY』なんていうホラー映画を想像した。うーん、気持ちのいいもんじゃないな。

「俺は並行世界をいくつか渡ってきている。最初に世界をまたいだ瞬間、違和感はあるんだけど、此処が違う世界だとはすぐには気づかない。ああ、それと俺自身は、別の世界の俺には会ったことがない」

「まあなあ、近い世界だったらそうだろうよ」

近似値の並行世界ではほぼほぼ同じことが起きている。師匠が世界をまたいだ瞬間、おそらくその世界の師匠も同じように世界をまたいでいる。

「俺は自分には会ったことがないから、何とも言えんがな。肌感覚で理解してしまったよ。同じ人間が同じ世界にいた場合、薄皮は無くなって饅頭は自らの形を保てなくなる。皿の上に広がったただの甘い小豆の塊だ。それはもう、華怜という個体ですらなくなる」

師匠は歩みを止めず、暮れなずむ空を見上げた。道を間違えて曲がり角を通り過ぎて、宵闇にこっちだよと促される。

「並行世界が並行であるためには、互いに決して触れ合わないという『皮の厚み』が必要なんだ。今の華怜の周りでは、その皮が、カピカピに乾燥して剥がれ落ちようとしている」

これを回避するにはあっちの華怜を正しい世界へ送り出すしかないわな。あのでっかいカミオカンデの乗り心地は最悪だった」

「ああ、あの水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置の改良版。つうか、出会い頭に殴られたんだよな」

「あ、いや、まあ、ごめんて」

師匠はそこで言葉を切り、華怜の住む昭和40年代築の堅牢なアパートの階段を見上げた。

「一度混ざり始めた餡子を、元の粒に戻すのは難しいだろうねえ。どちらかの華怜が、もう片方の隠し味になっちまう前に、ホドロフスキーにツッコまないといかんね」

「チェレンコフな。ホドロフスキーだと聖なる山に登らなきゃいけなくなる」

宵闇貴彦は吐き捨てるように言い、重い足取りで階段に手をかけた。


「俺たちのアナコンダ」の予習の為「アナコンダ」を観ようとしたら、U-NEXTから1作目だけ、消えている。最近、役に立ってくれないのだ。

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