第九十三話 凱旋
俺達は試験会場を後にし、討伐団のアジトへ向かっていた。
空は晴れ、長かった試験も終わり、ようやく肩の力が抜けていた。
そのはずなのだが。
「……浮かない顔だけど、大丈夫?」
隣を歩くキャリーが俺の顔を覗き尋ねた。
「……大丈夫だよ」
「本当に?」
キャリーは心配そうに見つめている。
「私達、合格したのよ?」
そう言って魔兵団免許を取り出した、陽の光を受けて輝く証、それを見る度に実感が湧いてくる。
「合格出来たんだから胸を張りなさいよ」
俺は苦笑した。
「……そうだな、ありがとう、キャリー」
キャリーは嬉しそうにに笑った、そしてふと思い出したように尋ねた。
「そういえば」
「ん?」
「あんたの最終試験の相手、誰だったの?」
アルの足が少しだけ止まる、脳裏に浮んだのは黒い外套に身を包み、不気味な笑みを浮かべた男、ダーク、彼の最後の一言が頭の中で反芻されていた。
『楽しかった……』
「アル?」
キャリーの声で我に返る。
「俺の相手はダークだった」
「え?」
キャリーが目を丸くする。
「ダークって、あいつ!?」
「ああ」
短く答える、しばらく沈黙、キャリーも何かを察したのか、それ以上は深く聞かなかった。
「……それでもアルが勝ったんでしょ?」
「ああ」
「ならいいじゃない」
だが俺の胸の奥には、まだ引っ掛かりが残っていた、そんな感覚だけが消えなかった。
◆
数日後、二人は討伐団のアジトへ帰還した。
「おおおおお!!」
「帰ってきたぞ!!」
「本当に受かったのか!?」
広間は大騒ぎだった、魔兵団免許を見せた瞬間、団員達は歓声を上げた。
机には料理が並び、酒樽が運び込まれる、即席の宴だった。
「今日は飲むぞー!」
「うおおおお!」
「祝勝会だ!」
キャリーはあっという間に輪の中へ消えていった。
「凄く美味しそう!」
「そんなに皿に取って大丈夫なのか?」
「今日位いいの!」
いつも通りだった、その様子を見ながら、俺は少し離れた場所に座る、手には果汁の入った木杯、騒がしい空気は嫌いじゃない。
だがどうしても頭からダークの事が離れない。
「浮かねぇ顔だな」
低い声が聞こえた、顔を上げるとそこにはビッグがいた。
「ボス」
ビッグは隣へ腰を下ろす、椅子が少し軋んだ。
「試験で何かあったな?」
アルは少し迷う。
だが、隠す理由もなかった、第一次試験と最終試験の事、出会った人物。
そしてダークとの戦いの大まかな流れを説明する、話を聞いていたビッグの表情が変わったのは影の調停者と言う名前が出た時だった。
「影の調停者……か」
その声は重かった、俺は眉をひそめる。
「知ってるんですか?」
ビッグは少し考え、そして小さく息を吐いた。
「最近勢力を上げてる裏で動いてる連中だ」
ビッグは静かに続ける。
「人間にも魔族にも属さない」
「表に出ることもほとんどない」
「だが世界中に手を伸ばしてる」
俺は黙って聞く。
「正体も目的もよく分からねぇ」
「だから厄介なんだ」
ビッグは俺を見る、その目は真剣だった。
「もしお前が倒した奴が、その影の調停者の人間なら」
「組織に目を付けられるかもしれねぇ」
広間の騒ぎが遠く聞こえる、アルは木杯を握り締めた。
「……気を付けた方がいい」
ビッグはそれだけ言った、脅しではない、忠告だった。
だからこそ重かった。
◆
翌朝、宴の熱気も消えた頃、俺とキャリーは荷物をまとめていた。
目的地は一つ、魔兵団本部、俺の夢だった場所。
「準備は出来た?」
キャリーが振り返る。
「ばっちりだ」
俺はは頷く、ビッグ達が入口まで見送りに来ていた。
「これから頑張れよ」
「はい!」
「皆、元気でね!」
キャリーが元気よく手を振る、団員達から笑い声が上がった、俺もも小さく笑う、そして二人は魔兵団本部へと歩き出した。




