第八十七話 不屈
ダークはゆっくりと歩み寄る、まるで散歩でもしているかのように。
楽しげに、心の底から愉快そうに。
「楽しいなあ」
ぽつりと呟く、その声に俺の背筋が冷える。
俺は限界だった、額から汗が流れ、呼吸も荒く、魔力はほとんど残っていない。
魔視も使えない、頼みの綱だった視界は閉ざされた。
(どうする……)
(何か手を考えろ!)
思考を巡らせる、しかし。
(くそ……)
何も思いつかない、視線を落とす、少し離れた場所にナイが転がっている。
(せめてナイを……)
そう思った瞬間、ダークがナイの前に立つ。
そして何の躊躇いもなく蹴った。
ガラン――!!
音を立てナイが宙を舞う、転がり、そのまま闘技場の外へ。
「っ!!」
(まずい……!)
武器まで失った、呼吸が乱れる、心臓がうるさい。
(落ち着け……!)
まだ終わってない、考えろ、まだ何かあるはずだ。
だが焦れば焦るほど頭は回らなくなる。
そしてそんな俺を見てダークは立ち止まった。
俺の顔を見て舌を出す、獲物を追い詰めた獣のように歓喜の笑みを浮かべながら。
「いいね」
その声は震えていた、恐怖ではない、興奮で。
「追い詰められても諦めない」
一歩、また一歩と距離が縮まる。
「だから戦いはやめられない」
俺は拳を握る。
だが――
まだ降参するつもりはなかった。




