第八十六話 魔力切れ
ダークは胸元に手を当てた。
そこには浅い傷、あとほんの少し深ければ勝負は決していた。
ダークは傷を見つめ、ゆっくりと笑った。
「とんでもない逸材だ」
その目が俺を捉える、今までとは違う、値踏みするような視線ではない。
認めるような視線。
「お前は……8だ」
会場が静まり返る、俺には意味が分からない。
だがダークにとっては特別な評価なのだろう、彼は続けた。
「強者だ」
そして肩を震わせる。
「久しぶりだ……」
笑っていた、心の底から楽しそうに。
「ククク……昂る……」
俺は反射的に距離を取った。
(危険だ)
そう本能が告げている、今のダークは第一次試験で会った時よりも比べ物にならない位危険だ。
呼吸を整え、もう一度構えようとした、その時だった。
カラン――。
乾いた音、俺は目を見開く、ナイが手から滑り落ちていた。
「……あ」
嫌な予感、急に身体が重くなり、指先に力が入らない、視界も少し霞む、そして理解した。
魔力切れだ、転移魔法、あれだけでも膨大な消耗だった。
さらにナイには常に魔力を与えている、魔力を喰らう剣、それがナイだ。
加えて最終試験開始から使い続けた魔視、考えてみれば当然だった。
むしろよくここまで持った方だ、俺は荒い呼吸を繰り返す。
汗が頬を伝った。
対するダークはそれを見ていた。
そして静かに口を開く。
「なるほど」
「そこが限界か」
俺はナイへ手を伸ばす。
だが腕が鉛のように重い、思うように動かない。
(……まずい)
(動かない……)
ダークはゆっくりと歩き出した。
一歩、また一歩と距離が縮まる。
勝負は最大の局面を迎えていた。




