第八話 諦めろ
「俺は魔兵団に入りたいです」
「父さんと母さんみたいに」
「誰かを守れる人になりたいんです」
アルの声が校長室に響く、その瞳には迷いがなかった。
だが、グロウは静かに目を閉じた。
そして――。
「率直に言おう」
重々しい声が響く。
「それは無理じゃ」
アルの表情が固まった。
「……え?」
聞き間違いかと思った。
だがグロウは続ける。
「魔兵団は世界最高峰の部隊じゃ」
「求められるのは知識だけではない」
「強大な魔法」
「優れた戦闘技術」
「極限状態でも生き残る力」
「そして仲間を守れる実力じゃ」
一つ一つの言葉がアルの胸に突き刺さる。
「お前は確かに優秀じゃ」
「学力だけなら誰にも負けんじゃろう」
「努力もしておる」
「それは認める」
しかし、グロウは首を横に振った。
「現実は残酷じゃ」
「努力だけで覆せる差ばかりではない」
アルは何も言えなかった。
「お前には得意魔法がない」
「何年も努力を続けても結果が出ておらん」
「魔兵団に必要な力には届いておらんのじゃ」
静寂。
校長室がやけに広く感じる。
グロウは責めているわけではなかった、ただ事実を述べているだけだった、だからこそ重かった。
「人の役に立ちたいのであれば」
老人は静かに続ける。
「他の道もある」
「研究者になるのもよい」
「教師になるのもよい」
「役人として国を支える者も必要じゃ」
「知識を活かせる仕事は数え切れんほどある」
アルは拳を握る、だが反論できない、グロウの言葉は正論だった。
「お前はまだ若い」
「十五歳じゃ」
「道はいくらでもある」
「無理に両親と同じ道を歩む必要はない」
その言葉が胸を抉る、まるで夢を諦めろと言われているようだった。
アルは俯く、床に視線を落とす、しばらく沈黙が続いた。
やがて――。
「……それでも」
小さな声が漏れた。
グロウの目が細まる。
アルはゆっくり顔を上げる、その瞳には悔しさが滲んでいた。
「それでも俺は――」
言葉を続けようとした瞬間、胸の奥から込み上げる感情があった。
悔しさ、怒り、悲しみ。
そして――。
諦めたくないという想い、アルは拳を強く握り締めた。




