第七十九話 運
勝負は拮抗していて、どちらが勝ってもおかしくないと思える、そんな戦いだった。
水魔法の駆け引き、読み合い、全てが紙一重。
一瞬の油断が命取りとなり、一手の選択が勝敗を決める、観戦している俺でさえ息を呑んだ。
「……」
気付けば拳を握っている、それほど緊張感のある試合だった。
そして勝敗を分けたものは実力ではない。
運、ほんのわずかな運命の偏り。
もし、ベルの放った水刃があと少しだけずれていたら。
もし、キャリーの回避が少しだけ遅れていたら勝っていたのはベルだったかもしれない。
本当にそれほどの差しかなかった。
バシャッ――。
最後の攻防が終わる、闘技場には静寂が訪れ、ベルは膝をついている。
呼吸も荒い、対するキャリーも無傷ではない、肩で息をし、額には汗、魔力もかなり消耗している。
キャリーはベルを見、そして、疲れた様子で言った。
「私の勝ちよ」
いつもの軽い調子ではない、本気で戦った後の声だった。
「降参と言いなさい」
ベルはしばらく黙っていた、悔しさもあっただろう。
だが彼女は理解していた、もう逆転はできない。
だから静かに目を閉じ、一言だけ告げた。
「……降参」
その瞬間、推薦書が大声で叫ぶ。
『勝者!!』
『キャリー!!』
歓声が上がり、観客席が沸く。
だがキャリーは派手なガッツポーズなどしなかった。
ただ大きく息を吐き、そして小さく笑った。
「危なかった……」
その呟きは近くにいた者にしか聞こえなかった、実力はほぼ互角。
だからこそ勝利の重みを誰よりも理解していた。




