第六十三話 人影
視界が開けた。
「!」
小さな空き地、そこにいたのはキャリーだった。
「アル!?」
キャリーが目を見開く、その姿を見て俺の胸が締め付けられた。
傷だらけで、傷から血が滲んでいる。
そして何より両足を重点的に攻撃されている、恐らく逃げられなくするために、だからキャリーは助けを呼んだのだ、と悟った。
「……っ」
俺の表情が険しくなる、キャリーは無理やり笑った。
「良かった……気付いてくれたんだ……」
その声にも余裕はない、俺は前へ出る。
そして相手を見る。
黒い外套に身を包んだ人影、顔の様なマスク、性別も分からない。
ただ静かに立っている、まるで最初からそこにいたかのように、異様な存在感だった。
俺は叫ぶ。
「何が目的だ!」
声が森へ響く。
だが、黒い人影は動じない、俺はさらに続けた。
「受験者同士の戦いは禁止されてない!」
それは知っている、推薦書も言っていた、だからこそ理解できない。
「でも!」
「何のメリットがある!?」
受験者を倒しても、試験の説明には何もなかった、ならこんなことをする意味がない、少なくとも俺にはそう思えた。
数秒の沈黙、夜風が吹く。
やがて黒い人影がゆっくりと顔を上げた、その動作は静かだった、それなのに背筋が寒くなる。
そして初めて口を開く。
「メリット?」
低い声、感情の薄い声だった。
「あるさ」
「……何だ」
黒い人影は答える、まるで当然のことを言うように。
「弱者が減る」
その一言に空気が凍った、キャリーの表情も強張る、俺は信じられなかった、弱者が減る、それだけの理由で人を傷付けたのか。
黒い人影は静かに続ける。
「この世界に必要なのは強者だけだ」
「弱者は邪魔」
「だから排除しなきゃいけない」
その言葉に俺の中で何かが切れた、目の前の人間は化け物じゃない、ちゃんとした人間だ。
なのに今だけはあの森の怪物たちより恐ろしく見えた。




