第五十九話 変な奴
森が静寂に戻る、化け物は動かない。
結局俺は何もできなかった、ただ見ていただけだ。
ムウは剣を肩へ担ぎながら歩いてくる、炎はすでに消えていた、まるで先ほどの激闘が嘘みたいだった、ムウは俺の前で立ち止まる、そしてじっとこちらを見る。
「アル……」
名前を呼ばれた、学園ではほとんど接点がなかった、だから少し意外だった。
「魔視は使えんのか」
「え?」
俺は目を瞬かせる、ムウは続ける。
「転移魔法に気づいてたな」
「普通のやつなら気付かねぇ」
「どうやらただの落ちこぼれではねぇみてぇだ」
褒められているのか、馬鹿にされているのかよく分からない。
困惑する俺を見てムウは肩をすくめた。
「まぁ」
「それだけか」
「え?」
「じゃあな」
そう言って背を向ける、俺は思わず叫んだ。
「待ってくれ!」
ムウが足を止める、振り返らない、だが聞いてはいるらしい。
俺は興奮していた、恐怖より、驚きより別の感情が勝っていた。
「あの!」
「さっきの!」
「戦闘で使った魔法!」
「どんな魔法なんだ?」
「教えてくれないか?」
止まらない、戦いが始まった時からずっとそうだった、知らない技術、見たことのない魔法、それを見たら気になって仕方がない。
「見たことない魔法もあった!」
「すごかった!」
「教えてくれ!」
森が静まる、魔族の少女がぽかんとしていた。
数秒の沈黙、そしてムウが振り返る。
「……は?」
「お前」
「今聞くこと、それか?」
「だって気になるだろ!」
即答だった、ムウは額を押さえる、そして初めて少しだけ笑った。
「変な奴だな」
そう言うムウの瞳の中にはアルが映っていた。




