第五十八話 高嶺の花
炎の鎖が空を裂く、だが、化け物は再び姿を消し、そして別の場所へ現れる。
「やっぱりな」
ムウは落ち着いた声で呟いた、焦りはない、むしろ確信を深めたようだった。
「転移魔法か」
「ただ――」
ムウが剣を構える、その瞳は獲物を見定める猛獣のようだった。
「荒いな」
「予測しやすい」
俺はハッとする、そうか、消えているんじゃない、転移しているんだ、だから魔視でも追いきれなかった。
移動速度ではなく、移動そのものが別の場所へ飛んでいる。
「そうだ……」
「この化け物は消えてるんじゃない」
魔力の残滓、わずかな痕跡、今なら見える。
「転移魔法を使ってるんだ」
その瞬間、ムウが消えた。
「!?」
今度は俺が見失う、辺りを細かく探す、そして見つけた。
空、化け物の真上にムウがいた。
「上!?」
化け物も気付いた、即座に両腕を掲げ、魔力が集まる。
半透明の壁、強固な防御魔法、あれだけの魔力だ、簡単には破れない。
だが、ムウは止まらない、炎が集まる、剣へ、腕へ、身体中からまるで太陽のような熱量を出し、剣を振り下ろした。
一閃、それだけだった、派手な爆発もない、叫び声もない、ただ斬った、それだけなのに防御魔法は紙のように裂けた。
スパッ――
あまりにも鮮やかに、あまりにも自然に、防御魔法ごと魔物は真っ二つになる。
その光景がはっきりと俺の瞳へ焼き付いた。
「……」
言葉が出ない、ただ見ていた学園時代、手の届かない存在だと思っていた。
だが違った、届かないなんてレベルじゃない、もっと遠い、もっと高い。
それでも目を離せなかった、それがあまりにも美しい剣だったから。
ムウは着地する、そして小さく笑った。
「そこそこ硬かったな」




