第五十七話 魔剣士
――ムウ。
齢十にして次期火の賢者候補とまで呼ばれた天才、学園時代からその名は有名だが火の得意魔法を持つ者は珍しくない。
だが、ムウは違う、才能が、適性が次元からして違った、火が得意なのではない、火に愛されている、そう言われるほどの存在だった。
◆
「……」
俺は魔視を使う、するとムウの戦い方が少しずつ見えてくる。
「身体強化……」
だがそれだけではない。
「それに炎を纏わせてる……?」
全身から炎が噴き出している。
腕、脚、背中、まるで炎そのものになったみたいだ。
魔力による身体強化、そこへ火属性魔法を重ねている、普通なら両立すら難しい、それを当然のようにやっている。
その様子を見ていたアルの脳裏に一人の男の姿が浮かぶ。
「父さん……」
思わず呟く、俺の横で魔族の少女も息を呑んでいた。
「まるで……」
「魔剣士……」
魔剣士。
魔法と剣技を極限まで融合させた戦士への称号、俺も本で読んだことがある。
だが実際に見るのは初めてだった。
ガギィィン!!
再び激突、ムウが後方へ飛ぶ。
その表情に焦りはない、むしろ楽しそうだった。
「とりあえず」
「様子見……だな」
化け物が唸る、そして再び距離を詰めようとした。
その瞬間、ムウが指を鳴らす。
パチン。
すると炎が伸びた、いや、違う。
「鎖……?」
俺は目を見開く、炎が鎖の形を取っている、しかも生きているように動く、本で見たこともない魔法だった。
炎の鎖は空中を駆ける、蛇のように獲物を追う、一直線に化け物へ襲いかかった。
「追尾してる……」
俺は驚愕する、炎の追尾する鎖、一体どれだけ高度な魔法なんだ。
だが化け物も異常だった、炎の鎖が迫る、普通なら逃げられない。
しかし、化け物は消え、次の瞬間には別の場所に立っている、炎の鎖は空を切る。
「避けた……」
俺は息を呑む、ムウは少しだけ笑った。
そしてその瞳から余裕が消え始める。
「やっぱりか」
天才と化け物、その戦いはさらに激しさを増していく。




