第五十四話 飛んで火にいる
草むらを飛び出した俺は目の前の光景に息を呑んだ。
そこにいたのは二人。
一人は魔族の少女、年齢は俺よりも少し下くらいだろうか、銀色の髪、小さな角、人間に似た顔つき、明らかに受験者だった。
そしてもう一人。
そいつを見た瞬間、背筋が凍る、細身、暗緑色の肌、人間のような姿、魔族か……?
いや、魔物の感じもする。
分からない、ただ一つだけ確かなことがある。
危険、圧倒的にヤバい、魔視を使うまでもない、全身から異常な気配が溢れていた。
まるで、あの森を徘徊していた怪物たちと同じ種類の存在。
いや、それ以上かもしれない、魔族の少女は動けずにいた、恐怖で足が竦んでいる。
そして細身の影が一歩前へ出る、その瞬間、俺の身体は動いていた。
「っ!」
地面を蹴る、考えるより早く、気付けば二人の間へ飛び込んでいた。
ザッ!
少女の前へ着地し、ナイを奴に向ける。
「……」
細身の人影はこちらを見る、表情は分からない。
だが、確かに見られている、本能が叫んでいる。
(逃げろ!振り返らず、今すぐ全力で!)
(絶対戦うな!お前なんかじゃ絶対に勝てない!)
頭では分かってる、でも、引くわけには行かない、ここで逃げればきっと後悔することになる。
相手を見る、手が震え、呼吸が浅くなる、冷や汗が流れる。
それでも俺は一歩も退かなかった、背後には怯える少女がいる。
だからナイを握る力を強める。
「大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように呟く。
そして背後の少女へ声をかけた。
「安心しろ」
震える声だった。
それでもはっきりと言う。
「俺が助ける」
細身の人影が、初めてわずかに首を傾げた、まるで面白いものを見つけたかのように。
そしてゆっくりと口を開く――。




