第五十一話 違和感
ガサッ。
茂みが揺れた瞬間、俺の身体は反射的に動いていた。
近くの木の陰へ飛び込み、息を殺す、音を立てないように気配を消す。
そして魔視を発動した。
「……っ」
背筋が凍る、見えた、茂みの向こう。
そこに存在する魔力、今まで見たどんな魔物とも違う、ソードガーディアンを思い出す。
いや、比べ物にならない、巨大、圧倒的、まるで災害そのものだった。
「なんだよ……あれ」
思わず唾を飲み込む、魔視が警鐘を鳴らしていた。
戦うな、近付くな、逃げろ、と本能が叫んでいる、見つかったら終わりだ、勝負にすらならない。
俺は息を潜める、動かない、考えない、ただじっと待つ、一秒、二秒、十秒、永遠のような時間が流れた。
やがてその魔力がゆっくり遠ざかっていく。
森の奥へ少しずつ、少しずつ、そして完全に消えた。
「はぁ……」
ようやく息を吐く、全身が汗で濡れていた、気付けば手も震えている。
「なんなんだよ……」
魔兵団試験、想像以上だった、受験者を試す試験ではない、受験者を殺しに来ている、と本気でそう思った。
俺は木にもたれかかる、そして考える。
「この試験……」
推薦書の言葉を思い出す、生き残れ、それだけ。
「何を試してるんだ?」
実力か?
だが今の魔物を見る限り正面から戦えば死ぬ。
なら知識か?判断力か?運か?
(分からない……)
俺は森を見渡した。
「でも」
ふと気付く。
「隠れてるだけでも達成できそうだが……」
一日生き残れば合格。
なら安全な場所を見つけて隠れていればいい、戦う必要はない、危険を冒す必要もない。
それで終わるはずだ。
「……本当にそうか?」
自分で言った言葉に違和感を覚える、魔兵団は国を守る組織、そんな組織がただ隠れていた者を合格にするだろうか。
「一体何なんだ……」
俺はナイの柄を握る、警戒を解かない、第一次試験は始まったばかり。
この森はまだ本当の牙を見せていなかった。




