第三十一話 キャリー
旅に出て数十日、俺はある街の宿屋で朝食を取っていた。
旅人、商人、冒険者、様々な人が行き交う学園とはまるで違う空気だった。
「なあ、聞いたか?」
近くの席で男たちが話している。
「この近くで魔物が出たんだってよ」
「またか?」
「ああ」
「被害は?」
「今のところ怪我人だけだが、何人か襲われてる」
俺は思わず耳を傾けた、人型の魔物は学園でも聞いたことはあるが珍しい存在だ。
「場所はどこですか?」
気付けば席を立っていた、男たちがこちらを見る。
「ん?」
「詳しく教えてください」
男は少し驚いた顔をした。
「お前、討伐に行く気か?」
「はい」
俺は即答した、男たちは顔を見合わせる。
「おいおい」
「やめとけ」
「魔物退治は専門の奴に任せておけ」
それでも俺は引かなかった、男は大きくため息を吐く。
「……街の北だ」
「森の入り口付近」
「だが――」
最後まで聞かず、俺は宿を飛び出した。
「あ、おい!」
背後で声が聞こえる、だが足は止めない、人が襲われているなら放っておけなかった。
◆
街の北、森の入り口。
木々の間を駆け抜ける。
すると――
「ギャアアアア!」
獣とも人ともつかない叫び声が響いた。
俺は反射的に走る、そして開けた場所へ飛び出した。
そこにいたのは――
人型の魔物だった、黒い皮膚、異様に長い腕、赤く濁った瞳。
確かに人に似ている、だが明らかに別の生き物だった。
そして、その魔物の前には、一人の少女が立っていた。
「はぁ……」
呆れたようなため息、青色の長い髪、河のような水色の瞳、俺と同じくらいの年齢、少女は面倒そうに魔物を見つめる。
「だからさぁ」
次の瞬間、手の先に魔法陣が浮かんだ。
「大人しくしてくれない?」
「拡散水流」
大量の水が出現し、魔物へ襲いかかった。
ザァァァァァ!!
人型の魔物が体勢を崩す。
「終わり」
「複数水槍」
無数の水槍が空中に浮かぶ。
十本。
二十本。
いや、それ以上。
そして、一斉に放たれた。
ズドドドドドドッ!!
水槍は魔物の身体を貫き、人型の魔物は動かなくなった。
討伐完了。
あまりにもあっさりだった。
「……すごい」
思わず声が漏れた、それに反応し、少女が振り返った。
青い瞳と目が合う、数秒の沈黙。
「え?」
少女が首を傾げた。
「なに?」
俺も思わず首を傾げる。
「いや……」
少しだけ言葉に詰まる。
「助けに来たんだけど」
少女は魔物の死体を指差した。
「終わったけど?」
「……」
「……」
気まずい沈黙。
そして。
少女が吹き出した。
「あはは!」
「なにそれ!」
旅に出て初めての魔物討伐、そのつもりだった。
そのはずだった、なのに、気付けば全部終わっていた。
少女はひとしきり笑うと、目元の涙を拭いた。
「面白いね!君!」
そう言って笑う顔は、どこか太陽みたいだった。
こうして――
アル・シンセリティとキャリー・キャンディーは出会ったのだった。




