第二十九話 魔兵団
魔兵団。
それは人間と魔族の平和を守るために存在する組織だ。
数百年前の大戦が終わった後も、世界から争いが消えたわけではなかった。
各地には危険な魔族や魔物が残り、人間同士の対立も続いている。
そんな脅威から人々を守るために結成されたのが魔兵団だった、誰もが憧れる存在、強さの象徴、そして英雄たちの集まり。
もちろん入団は簡単ではない、王立魔法学園の授業でも何度も教えられてきた。
まず必要なのは現役団員からの推薦書、そして魔兵団本部が実施する厳しい入団試験への合格。
どちらか一方では意味がない、両方を満たして初めて魔兵団の一員になれる、だから多くの人は学園卒業を目指す。
卒業時に推薦書を得て、その先で入団試験へ挑戦するのだ。
そんな話を――俺はライス先生から聞いていた。
夕暮れの訓練場、赤く染まる空の下で、ライス先生が俺を呼ぶ。
「アル」
「はい」
返事をすると、先生は懐から一枚の封筒を取り出した、見覚えのある紋章、魔法学園の正式な印だった。
「これをやる」
「え?」
俺は首を傾げながら封筒を受け取る、そして中身を確認した瞬間――思考が止まった。
「推薦書……?」
手が震える、何度見ても間違いない、そこに入っていたのは、魔兵団への推薦状だった。
「ちょっ……」
思わず顔を上げる。
「先生!?」
「これって卒業した時にもらうものじゃ……!」
ライス先生は平然としていた。
「普通はな」
「じゃあなんで……」
理解が追いつかない、まだ卒業もしていない、学園にも在籍している、そんな俺が持っていていいものではないはずだ。
するとライス先生は静かに言った。
「校長も承認済みだ」
「校長先生も……?」
「むしろ最初に賛成したのはあの人だ」
頭の中が真っ白になる、ライス先生は腕を組み、真っ直ぐ俺を見た。
「アル」
その声にはいつもの軽さがなかった。
「お前にはこの檻は狭い」
俺は目を見開く。
「お前は一年で基礎を叩き込んだ」
「学園で学べることもまだある」
「だが」
「それ以上に外で学ぶことの方が多い」
「世界を旅しろ」
その一言に胸が高鳴る。
「人に会え」
「強者に会え」
「魔族にも会え」
「そして自分の道を探せ」
学園を出る、そんなこと考えたこともなかった。
だけど、不安より先に期待が込み上げてくる。
世界は広い、なら、俺はその世界を見てみたい。
自分の目で、自分の足で、まだ知らない景色を、まだ知らない強さを、まだ知らない可能性を。
「……行ってこい」
ライス先生は静かに言った。
その言葉は――
師匠から弟子へ送られた、最初の旅立ちの合図だった。




