第二十六話 最低
「全てが苦手魔法、か……」
教室を出た後、俺とライス先生は廊下を歩いていた。
頭の中はぐちゃぐちゃだった、得意魔法がない、それだけでも十分きつかった、なのに、まさか全属性が苦手だったなんて。
「ははっ」
隣でライス先生が笑う。
「まさか全て苦手魔法だとはな」
俺は思わず振り返った。
「笑い事じゃないですよ!」
声が少し大きくなる。
ライス先生は肩をすくめた。
「すまんすまん」
「いや、本当に初めて見たんだ」
「だからって笑います?」
「珍しいものを見ると笑いたくなる時もある」
「最低ですね」
「否定はせん」
全然慰めにならない、俺は大きくため息を吐き、そして足を止める。
「苦手魔法なんて……」
「努力でどうにかなるものじゃないじゃないですか」
今までなら努力不足だと思えた。
練習が足りない、知識が足りない、そう考えれば頑張れた、でも今回は違う、適性の問題だ、生まれつきの。
どうしようもない問題、ライス先生も笑うのをやめた。
「そうだな」
珍しくあっさり認める。
「努力で覆せる部分にも限界はある」
その言葉が胸に刺さる。
「俺は身体強化や剣術なら教えられる」
「魔力操作もな」
「だが適性改善の分野は専門外だ」
ライス先生は頭をかいた。
「というか」
「得意な奴なんて聞いたことがない」
「……」
「研究者でも首を傾げる案件だろうな」
俺は何も言えなかった、ただ俯く、廊下の床だけが見える、結局、俺は特別だった。
良い意味じゃない、悪い意味で。
王になりたい、魔兵団に入りたい、誰かを守りたい、それなのに、肝心の魔法適性が全部低い。
笑えない話だ、ライス先生はしばらく黙っていた、そして。
「まあ」
突然そう言った、俺は顔を上げる。
「まだ終わったわけじゃない」
「え?」
「落ち込むのは勝手だ」
「だが諦めるのは早い」
ライス先生はいつもの調子で言う。
「俺たちは原因を知っただけだ」
「解決策がないと決まったわけじゃない」
俺は何も返せなかった、希望があるのか、ないのか、今は分からない。
ただ一つ分かるのは、胸の奥に広がる重たい気持ちだけだった。
俺は静かに空を見上げた、雲ひとつない青空が、今だけは少し遠く感じた。




