第二十五話 メルビィ
教室の扉を開ける、すると。
「おや?」
しわがれた声が聞こえた、部屋の中央には一人の老婆が座っていた。
長いローブに深く刻まれた皺、まるで昔話に出てくる占い師そのものだった。
「誰ですか?」
俺が小声で尋ねる、するとライス先生が答えた。
「メルビィさんだ」
「魔兵団でも屈指の実力者だぞ」
老婆は鼻で笑う。
「さん付けなんて気持ち悪いねぇ」
「一応年上なので」
「そういうところは真面目だねぇ」
二人のやり取りを見ていると、どうやら知り合いらしい。
俺は慌てて頭を下げた。
「はじめまして!」
「アル・シンセリティです!」
メルビィは俺をじっと見つめる、まるで品定めでもするような目だった。
「ほう」
「そいつかい」
「噂の得意魔法なし坊やは」
俺は苦笑した、すっかり有名らしい。
「まぁいい」
メルビィは手をひらひら振る。
「とりあえずその椅子に座りな」
「え?」
「いいから」
有無を言わせぬ口調だった、俺は言われるまま席に着く、なんとなく緊張する、そして、老婆は顔を近づけ、俺をしっかりと見つめる。
次の瞬間だった。
「へぇ」
老婆が小さく呟いた。
「な…何か分かったんですか?」
部屋に沈黙が訪れる、メルビィは目を細めていた、何かを考えている。
ライス先生も黙っている。
「どうだったんですか?」
俺は恐る恐る尋ねた、メルビィは深いため息を吐く。
「なるほどねぇ」
嫌な予感がした。
「アル」
「はい」
「お前さん」
少し間を置く、そして。
「得意魔法がないどころじゃない」
俺の心臓が嫌な音を立てた。
「え?」
メルビィはあっさり告げる。
「あんたは全てが苦手魔法だ」
沈黙。
俺は意味を理解できなかった。
「……はい?」
「火も」
「水も」
「風も」
「雷も」
「全部の魔法への適性がない」
メルビィは淡々と言う。
「普通は苦手があっても得意で補える」
「だがあんたにはそれがない」
俺は固まった、頭が真っ白になる。
つまり、俺は。
「全部……苦手……?」
「ああ」
あまりにも残酷な答えだった、努力不足じゃない、もっと根本的な問題。
俺はゆっくり俯く、胸の奥が重い。
一年間、必死に努力してきた、それでも届かなかった理由、その答えがこれだった。
「……そうですか」
小さな声が漏れる、落胆、それ以外の感情が出てこなかった。




