第百七話 アルvsペイシェンス
「始め!」
開始の合図と同時に、俺は魔視を発動した、それはペイシェンスも同じだった。
互いに相手の魔力の流れを観察し、動かない。
草原に静寂が訪れる、周囲の団員達も固唾を呑んで見守っていた。
(この人、強い……)
(隙がほとんど無い)
(なるほどな)
(アルも魔視持ちか)
両者は睨み合ったまま動かない、するとペイシェンスが痺れを切らしたように口を開いた。
「なんだ?」
「来ないならこっちから行くぞ!」
ペイシェンスは剣を構える。
「炎塗装」
瞬間、剣が紅蓮の炎を纏った、それにより周囲の空気が熱を帯びる。
ドンッ!!
地面を蹴り、ペイシェンスが一気に距離を詰めた。
(早い――!)
しかし。
(けど見えてる!)
俺は紙一重で斬撃を回避する、そしてそのまま反撃、魔視で捉えた急所へ剣を突き出した。
だが――
「おいおい」
「そりゃ安直過ぎるぜ」
ガンッ!
剣は見えない壁に弾かれる、防御魔法だった。
「っ!」
攻撃を防がれた一瞬、その隙をペイシェンスは見逃さない、炎を纏った剣が振り下ろされる。
(早い!)
(避けられない!)
俺は咄嗟に魔法を発動する。
「転移魔法!」
俺が転移した直後、ペイシェンスの剣が地面を砕く。
ドゴォン!!
土煙が舞い上がった、少し離れた場所へ現れたアルを見てペイシェンスは感心したように笑う。
「おお」
「なるほどな」
ペイシェンスは剣を肩に担ぐ。
「お前の基本戦闘スタイルは魔視で相手の隙を狙うこと」
「転移魔法を使った攻めもできる」
「優秀だな」
そして笑みを深める。
「少なくともここじゃなけりゃな」
「……」
ペイシェンスは空いている手を前へ出した、魔力が集まり始める。
「これはどう防ぐ?」
ペイシェンスは魔法を放った。
「複合魔法」
「複数炎纏風刃」
次の瞬間、複数の風の刃が生み出される、そしてその全てが炎を纏っていた、それらは轟音と共にアルへ襲い掛かる。
「っ!」
「転移魔法!」
俺は何度も転移を繰り返した、攻撃を回避し続ける。
しかし、全てを避け切った直後、俺の足が止まった。
「くそっ……」
「魔力切れ……」
転移魔法は強力だ、だが消費魔力も大きい。
ペイシェンスは剣を下ろした。
「魔力切れか?」
「転移魔法はかなりの魔力を消費するからな」
「さぁ、まだやれるか?」
俺は剣を握ったまま考える。
(ダークと戦った時と同じ状況)
(でも違う)
(この人は全く油断してない)
(魔視も発動したままだろう)
(……勝機は無い)
沈黙の後、俺はゆっくりと口を開いた。
「……降参だ」
「……そこまで!」
試合終了の宣言が響いた、ペイシェンスは満足そうに笑う。
「いい戦いだったぜ」
そう言いながら仲間達の元へ戻っていく、一方俺は暗い表情のままキャリー達の元へ戻った。
「大丈夫?」
「しょうがないわよ」
「相手は最強クラスのパーティなんでしょ?」
「そうだぜ!」
「だからあんま落ち込むなよ、アル」
リバは豪快に笑う。
「それに今の戦いで分かったことがある!」
「?」
「100%俺が勝てないってことだ!」
「あんたよくそんな事自慢気に言えるね……」
「だって事実だからな!」
キャリーは呆れたようにため息をついた。
俺は俯く。
「正直言って」
「少しは成長できたと思ってた」
俺は拳を握る。
「でも全然違った」
「全く届かなかった……」
その後、キャリーとリバもそれぞれ試験を受けた。
結果は――惨敗。
三人とも実力差を痛感することになった、試験を終えた俺達はギルドへ戻るため歩き出す。
しかしその時、後ろから声が飛んだ。
「アル!」
俺は振り返る、リーダーは真っ直ぐアルを見ていた。
「いつかもっと強くなったらまた受けに来い」
「……」
「お前が受かった時」
リーダーは少しだけ笑う。
「お前の両親について知ってる事を教えてやる」
俺の目が大きく見開かれる。
俺があまり知らない両親の話、それは俺が子供の時から凄く気になっている事だ。
「……はい!」
俺は強く答えるとリーダーは満足そうに頷いた、俺は空を見上げる、今日の敗北は悔しい。
だが――。
俺の中に新たな目標が生まれていた、いつかアステラに認められるほど強くなる。
そして、両親のことを知るために、両親の様になるために、その決意を胸に、俺は歩き出した。




