第十話 決意
校長室には重い沈黙が流れていた、アルは俯いたまま動けない。
父と母、憧れ続けてきた二人。
その最後があまりにも残酷だった。
拳を握る、悔しかった、何もできない自分が、何も知らなかった自分が。
そして――今もなお無力な自分が。
「…………」
グロウはそんなアルを静かに見つめていた。
やがて老人は目を閉じる、何かを思い出すように、懐かしむように、そして小さく呟いた。
「ただ……」
アルが顔を上げる。
「どうしても諦めきれんというのなら」
老人は椅子にもたれながら言った。
「ライスの元へ行け」
「ライス先生……?」
アルは聞き返す。
グロウは頷いた。
「奴はこの学園でも指折りの実力者じゃ」
「戦闘技術においては儂より上かもしれん」
「厳しい男じゃがな」
「実力だけなら間違いなく本物じゃ」
アルは驚いた。
賢者であるグロウがそこまで評価する人物、普通の教師ではないことだけは分かる。
「儂はお前に夢を見せるつもりはない」
グロウは真っ直ぐアルを見る。
「魔兵団への道が険しいという事実も変わらん」
「だが」
老人は静かに続けた。
「それでも前へ進みたいのなら」
「最後まで足掻いてみろ」
アルは目を見開く、胸の奥が熱くなる、悔しさは消えていない、両親のことを聞いて苦しさも増した。
それでも立ち止まりたくはなかった、アルはゆっくりと拳を握る。
そして――。
「……はい」
小さく答えた、しかし、その声には確かな力があった。
「俺は諦めません」
瞳に宿るのは決意。
「どれだけ無理だって言われても」
「どれだけ笑われても」
「俺は強くなります」
「父さんと母さんみたいに」
校長室に力強い声が響く。
グロウは何も言わない、ただ静かに頷いた。
アルは深く頭を下げる、その胸には悔しさと共に、新たな決意が刻まれていた。
そして――。
アル・サクリファイスはまだ知らない、これから出会うライスという教師が、自らの運命を大きく変える存在になることを。




