対戦Code_005:諸行無常の情けなし
……中継セクター、通信パッチ監査ログ。
担当:カレシ。
本対戦のテーマは『断捨離における物理的・時間的コストの最適化(ROI)』。
【序盤:カレシの圧倒的優位】
カレシ「1年以上使用していないものは即廃棄。これが最適解です」
私の部屋は冷徹に最適化されている。
カノジョ「『いつか使うかも』も立派な価値だよ!」
彼女の部屋は10年前のピザ箱と「いつか着る王女様ドレス」で大混沌。
「ぎゃー! 王女様の衣装にピザソースが!」
私の勝利は確実……と思われた瞬間、鼻歌交じりに雇い主が乱入。
【四畳半ミニマリズムの乱入】
雇い主「ほほう、片付けかね。私はね、ミニマリズムを極めているよ。捨てる基準?『クリエイターとしての世界観』に必要か否かだ」
カレシ(監査を実行)
――雇い主の部屋のホログラム表示――
部屋の真ん中には倒れかけた流木、螺旋状に積んである洋書、もくもくとたちのぼるお香の煙。
※中継セクター最下層画像保管庫参照
カノジョ「うわっ、 なんかすごい!」
カレシ「(小声)部屋の非効率性96%」
雇い主「フッ、大事なのは生への密度だよ。それ以外はナッシング」
カノジョ「雇い主、『インテリワード』全集、畳の下のみかんの段ボールに入ってたよ」
雇い主「これこれ、私の戦略室に勝手に入るでない。」
【外部からの試練】
知人からの連絡が同時に割り込んだ。
ルートA:雇い主
知人「あ、雇い主さん? 前にお預けした重要書類のバックアップってあります?」
雇い主「うむ。『諸行無常』だよ」
知人「……あ、やっぱり。聞いた私がバカでした! 忘れてください!」
雇い主「うむ。」
(相手の諦めにより、エラーなくタスク正常終了。判定:大サクセス)
ルートB:カレシ
知人「カレシくん! 1年ぐらい前になるかな、君に預けた僕の思い出の品、まだあるよね?」
カレシ「否。該当オブジェクトは1年以上アクセスがなかったため、23日前に『廃棄』しました。データ上、アクセス確率は1%未満という根拠も提示可能です」
知人「ええーっ!? 君なら大丈夫と思って預けたのに……。カレシくん、冷たいね。もういいよ……」
(ガチャ切り)
カレシ「……えっ? あ、あの、論理的には……ちょっ」
【ログの幕引き:唯我独尊の勝利】
カノジョ「あーあ、カレシ。相手の心、クラッシュしちゃったね。雇い主の方は、超効率的だったね」
カレシ「な、なぜです……。論理的な最適解を実行した私が『冷酷な人』扱いされ、己の欲(格好つけ)のままの雇い主が『そういう人だから』で許容されるなんて……!」
私のプロセッサから薄い白煙が上がり始める。
カノジョはニコニコ笑いながら、壁の戦績表を更新。
今回は「雇い主の不条理勝ち」、いや「カレシの精神的自爆」だろうか。
現在のカレシのノイズ吸着容量、残率51%(前回比-2%)。
カレシ猫汚染率:44%(前回比+3%)。
「所有とは、客観的リソースではなく、主観的システムエラーである」——この未定義のバグを抱えたまま、私は手帳の余白へ、また一つ、丸みを帯びた『猫のマーク』を書き加えた。
【中継セクター:戦績表】
カノジョ勝利数 1
カレシ勝利数 0(精神的スタンドアローン状態)
雇い主の四畳半ミニマリズム 120%(バースト)
<対戦後の雑談>
雇い主「まさに、ご飯上々の境地だよ」
カノジョ「やったー、おにぎりだー!」
雇い主「うむ」
(ん? 読み方、間違えたかな)
カレシ「…………仏教用語か?…………うっ、く、苦しい。雇い主様、『涅槃寂静』……」
雇い主「うむ。いかにも」
(本人は数秒前の自分のセリフを忘れている)
──対戦後の雇い主の崩壊はこちら──
LOG_037:【諸行無常の情けなし。の崩壊】
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