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【観測者の時空】番外編『中継セクター』 ―サボり屋カノジョの監査ログ―  作者: Taku
第1章:サボり観測ログ

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第10話 初対面のコスパ分析——人間関係の初期投資について

観測日時:特に予定のない週末の午後(カフェでぼんやりしている時)

観測対象:初対面の人との「無駄な」自己紹介と会話

観測者:カノジョ(今日もサボりたいけど、つい分析)


私はカノジョ。物語の案内役。引き受けたら最後、次から次へと依頼が舞い込むノーギャラ労働者だ。労働基準法が適用されない存在であることをいいことに、雇い主が容赦なく私をこき使うので、雇い主には見せられない裏日記を、ここに綴るね。



さて。今日もぼんやりカフェに座っていたら気づいたんだけど、初対面の人って毎回同じこと言ってない?


「はじめまして」「よろしくお願いします」「私はこういう者で」

――これ、全員が全員に説明してて、データ的に見たら情報の重複もいいところ。

クラウドで同期すれば一瞬なのに、わざわざ声帯という生体パーツを振動させて、パケットを無駄遣いしている。


だって、あなたの隣の人も、その隣の人も、みんな同じ説明をしてるわけでしょ? これは効率が悪すぎる。社会の通信帯域の無駄遣い、まさにコミュニケーションの渋滞である。


というわけで、今日は「初対面のコスパ」を真面目に分析してみた。


データによる「最適解」の計算

まず、人間が生涯に出会う人数って知ってる? ある研究(ネットのまとめ記事で見たから絶対正しい)によると約8,472人。そのうち、初対面でちゃんと自己紹介する相手を3,000人としよう。


1回の自己紹介にかかる平均時間。名前(1秒)、所属(2秒)、「よろしくお願いします」(1.5秒)。計4.5秒。

でも実際はそこに「あ、名刺が切れておりまして」とか「最近急に冷え込みますね」とか、本質とは一切関係のないお天気トークや、笑顔を作るための顔面筋肉のウォームアップ時間が入る。平均3.5分。


3.5分×3,000人=10,500分=175時間=約7.3日。


えっ。人生の丸々一週間、ただの挨拶に使ってるの? もったいない。

一週間あれば、推しの動画を何周できると思っているんだ。


――ここで、カノジョからの革命的提案。


全人類が額にQRコードを貼ればいいんじゃない?

必要な情報は全部そこに入れておく。名前、所属、趣味、経歴、過去の炎上リスク、現在の機嫌(5段階評価)。相手はスマホかざすだけ。会話ゼロ。時間は3.5分から0.1秒に短縮。


さっきの計算に当てはめると……

175時間→約1.5時間。

173.5時間の節約!

これを何に使うかはあなた次第。私は寝る。


実際、帰って鏡の前で自分の額に指でQRコードの位置をシミュレーションしてみたんだけど……「前髪で隠れたら読み取りエラーになるな」とか真面目にデバッグを考えている自分がちょっとバカみたいで笑えた。


結論


よし、決めた。


次の初対面の人にはこのQRコードシステムを提案しよう。データ的に正しい。無駄な会話は排除すべき。効率が正義。


――でもね。


やらかし(かわいげ)


数日後。カフェで気になる相手と初めて会うことになった。

私はあらかじめ自分のプロフィールサイトのQRコードをスマホに準備してきた。額に貼る勇気はなかったけど、まあいっか。これが私の『人間関係高速道路化計画』の記念すべき第一歩だ。


「はじめまして」


相手が言った。少しはにかんだような、予想より少し低い声だった。


はーいここでQRコード出番ですよ。私はスマホを構えた。「さあ、私の生体データをスキャンなさい!」とばかりに読み取り画面を開く。


……あれ? 指が動かない。なんで?


読み取れば相手のデータ全部わかるのに。好きなものも、苦手なものも、血液型も誕生日も。なのに、どうしても読み取りボタンを押せない。スマホを持つ手のひらが、なぜかじっとりと熱くなっている。


なんか恥ずかしい。というか、データとして処理してしまったら、その瞬間にこの人が『ただの記録』になってしまう気がした。

データとして知りたいんじゃなくて、自分で聞き出したい。その「聞き出す」って行為が楽しいんだって、今さら気づいた。エラーまみれの対面通信に、私のバグった脳が興奮している。


結局、スマホをポケットに押し込んで言った。


「……あ、いい天気ですね」


相手が、少し驚いたように、それから嬉しそうに笑った。


「今日、暑いですもんね」


たったそれだけの無駄な会話。でもその人の声のトーンとか、笑う時の口元とか、目尻の皺とか、そういう『不要なノイズ』の隙間から、データで読み取るよりずっと多くのことが伝わってきた。不思議。


深い結末


帰り道、一人で考えた。


プロフィールを100回読むより、一言の「暑いですね」の方が、相手の「体温」を正確に測れる。こんな皮肉なことってある?

無駄な時間って、本当は無駄じゃなかったんだ。

サボりたいはずなのに、結局「効率」より「わからなさ」を選んでしまう。これが私のサボり屋としての矛盾なのかもしれない。でも、なんかそれでいい気がする。


人のことを知るって、データを集めることじゃなかったんだ。データの網目をすり抜けていく、あの不揃いな笑顔の理由を、一緒になって探すことだったんだ。


ちょっとした「無駄」の隙間からしか、本当のその人は見えてこない。


ねえ、みんなは初対面の人と、どんな話をする? 「実は額にQRコード貼りたい」って思ってるの、私だけ?よかったら教えてね。


(今日の結論:QRコードはボツ。無駄な会話も、たまには悪くない。さて、通信エラーの余韻に浸りながら、今度こそ私は寝ます。)


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