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20.その自己紹介には興味がない

イルゼカインちゃん、舐めプ舐めプ。会場のみんなドン引きだよ。

 監査官がその女を「逆賊」と呼んだ時、国王や重要職の大臣たちといった幾らかの人間たちは疑問を感じた。

 ヨーギ男爵家のその商会は公国人によって乗っ取られている。ならば男爵令嬢シーナ・ヨーギも、公国人なのではないか。他国の人間を指して「逆賊」というのは少しおかしいのではないか。

 しかし、彼らは女が自らの偽装を振り払い、露わにした本当の姿を見て理解した。確かにその女は逆賊だった。

 十八年前、会館に火を放ち、王家を脅かし、多くの人間を傷つけ殺め、自らも炎に巻かれて死んだはずの女。ニンナ・マイラン・ペンルー。

 記憶のある者たちは呻き、苦しみに胸が満ちる。王たちと共にイルゼカインを追って大広間へとやって来たノアベル・アレルクス・ロマスク・オートピアは、自分の喉から叫び声が出ていくのを他人事のように感じた。そしてこの場に、サクラがいなくて良かったと思った。

 恐れと驚きに会場が揺れる。その中でイルゼカインだけは無関心そうに女を見ていた。その興味の無さが逆賊となった彼女を刺激する。先程まで可憐な少女であったはずの女は、抱え続けていた怒りを怒声として広間に響かせた。

「私はニンナ・マイラン・ペンルー! 私は貧しい人々のため! 王家と貴族を皆殺しにすると誓い! 革命を齎す者だ!」

 そう叫ぶや否やマイランは俊敏に動き、呆然としていた王太子ルミナントに近づくと背後から彼を羽交い締めにする。

「ぐぅッ!? し、シー、ナッ」

「十八年前は失敗したが、今度こそ全員殺してやる!」

 がなる女の細腕が丸太のように膨らみ、ドレスの袖が弾けた。太い腕に挟まれた王太子の首が締め上げられる。王城の中で魔法を使用し、他者を攻撃することなどできないと思っていた観衆は驚きと恐怖の声を上げた。

 イルゼカインは「呪術かな?」と、どうでも良さそうにそれを眺めていたが、流石に何か反応したほうがいいのかと気付いた。そして、僅かな思案を経て、両手を叩いて疎らに短い拍手をした。

「わあ。驚いた。まさか、えーと、なんだっけ、あ、ニンナ・マイラン・ペンルー? だなんて、びっくりしたー」

 あまりに棒読み過ぎて会場の時が停まった。マイランも思考が停止する。締め上げる腕の圧も停まった。苦しげな王太子の喘鳴が続く中で、拍手は停まった。

 仮面の断罪卿は「嫌になってしまうな」と肩を竦めるジェスチャーをして見せた。

「今回は私の覚えていない話をされることが多くて困る。十八年前の放火犯一派が生きていたのは分かったが、だからどうした? お前以外は全員殺したぞ。今回もまた失敗だな、逆賊。そして三度目はない」

 一歩、イルゼカインは踏み出す。ゆったりとした足取りで大階段へと近付いていく。板金鎧が鳴る。

「私個人の感想があるとすれば、頭が悪いということはとても可哀想だなぁ、と思った程度だ。身元確認は両親がしたと記録されているが、その際に他人の死体を娘と認めただけだろう。連座で姻戚含めて死罪にしたからもはや口はないが」

 大階段の最初の一段に足を乗せて、イルゼカインは止まった。そして中程にいる王太子と女を眺める。見上げているはずなのに、見下していた。

「娘が逃げ果せたことに気付いていたのだろうな。それとも、親も馬鹿だとその子供は輪を掛けた馬鹿になる、という説を証明したかったのかな? お前はどちらだと思う? 逆賊の馬鹿女」

 明確な侮辱を受けて、マイランは激昂した。

「~~ッこの状況を見ろ! このまま王太子の首をへし折るぞ!」

「? 別に構わないが? お前こそ私の話を聞いていなかったのか? その王太子は廃嫡で、血統剪定のために断種する、と。そんな王太子の生死に価値があると思うのか?」

 ルミナントは酸欠寸前でも耳は聞こえていた。監査官が自分を見殺しにする旨を述べているのも聞いていたので、藻掻きながら瞳に涙を浮かべていた。王と王妃、貴族たちも、「監査官なら見捨てる」という諦めた共通認識があるから黙って行く末を傍観するしかない。

 人質の無価値さと、周囲が誰も反論しなかったことに戸惑うマイランを、監査官は自分の副官を真似て嘲笑する。

「お前が馬鹿のように唱える"革命"とやらは、反王国派の公国人が生み出した幻想だ。馬鹿だから分からなかったんだろう? お粗末で貧弱な公国豚どもに騙されて踊らされて、放火して、自分の家を滅ぼしたのだから救い難いな。馬鹿だから分からなかったんだろう?」

「口を閉じろ死に損ない! 王宮の結界内であろうと、お前を殺すことなど簡単にできるんだぞ!」

 反逆者は唾を飛ばして吠えた。仮面で火傷面を覆う監査官がそれを一笑に付す。

「面白い遠吠えだな。いいよ、やれるものならやってみろ。殺してやるからかかって来い、馬鹿女」

 瞬間、マイランの脳内で何かが焼き切れた。女は監査官を指差す。

「<curse target><burn burn burn>イルゼカイン・エルドリーザ・ディグレンゼ・ヘルロンド</burn burn burn> </curse target>!!!!!」

 不可視、不可逆の呪術が放たれる。そして、イルゼカインの身は天井をも焦がす業火に包まれた。






「面白い!」と思ったらコメント欄で好きなハードボイルド小説を教えてください。ちなみにワイは「壊れた世界の者たちよ」(ドン・ウィンズロウ)です。

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