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外伝 さらば魔法少女たち  作者: ガルバンゾー圭人
第1章

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第8話 交野(かたの)

 大蓮八重子が美鈴の話を聞く様子は、至って真剣だった。美鈴を気に掛け、時折「大変だったね」「辛かったね」と相槌を打つ八重子の姿は、家族に相談している時のように、自分の存在を受け入れてくれている、と感じる心地良さがあった。八重子とは同級生になり、まだ1ヶ月も過ごしていないはずだが、もう何年も前から苦楽を共にし、心の内を曝(さら)け出してきたような、不思議な親しみを感じた。美鈴は青龍高等学校・中等部から進学しており、内部生であった。同じ内部生で仲良しの粟田(あわた)真希(まき)や渡部(わたべ)理菜(りな)よりも、八重子の存在を身近に感じた。原因不明で体調が悪化してゆく恐怖と、相談した際に『こんな馬鹿げた話、まるで精神がまいっているのではないか』と否定されるのではないか、という強い不安があった故に、八重子の態度が増(ま)して心に沁(し)みたのかも知れない。あるいは八重子の精神が、その人生経験により、卓越(たくえつ)した包容力を持っていたからかも知れない。この時(とき)美鈴の感じた安心感は、相談相手が八重子でなかったら感じ得ないものであった。

 当時、青龍高校では、超自然的な現象に関心を持ったり、強い信仰を抱いたりする生徒が非常に少なかった。技術の発展により、森羅万象は科学的に解明された。風邪を引けば狐憑きだと言われ、神仏に祈ったり、祈祷師を自宅に呼んだりする時代は終わった。病院に行き、薬を処方してもらう。蛇口を捻(ひね)れば衛生的な水がいつでも出るし、電気やガスも好きな時に使える。テレビやネット、雑誌で見たもので、欲しいものがあれば親に頼み、何でも買ってもらえる。対価を支払えば欲を手軽に満たすことが出来る環境が整っていた。

 一方でがんや認知症が不治の病だ、とか、一等星の多くは双子星である、と云った、突き詰めれば未解明の現象は存在した。だが、誰かが病に倒れたり、天文学の研究者であったり等(など)の、その知識が必要な状況でない限り、緊急性の低い疑問であった。それ故、仮に疑問を持っても自分で探求せず、放置した。時間が経てば誰かが答えてくれるだろう、とどこか気楽な考えを持っていた。

 何不自由ない環境で育った美鈴にとって、幻聴と体調不良は、豊(・)か(・)さ(・)で解決できない、未解明の現象であった。既存の知識で解決できない事態に陥った際、状況を打開する方法の一つとして、普段なら行わない意表な行動をとる、という方法がある。美鈴はまさにその方法を取ったのだ。私も美鈴を参考に、只今(ただいま)小松君の原稿催促のラインを未読にしている。悩みがある際、美鈴はいつも珠紀や真希、理菜に相談していた。それでも解決出来ない時は両親に知恵を貰った。距離感のある同級生に話そうとは思わなかった。この想定外の知恵を美鈴に与えたのが、ヨネであったことは言うまでもない。

 八重子は美鈴の話を全て聞くと、ゆっくりとこう言った。

「時間がある時に、職員室の交野(かたの)先生のところに行って『大蓮八重子の紹介で、交野先生のところへ相談に来ました』って言うといいよ」

「うん、そうする」美鈴はそう言った。よく考えてみれば、高校2年の国語教科担当の教職員に、生徒である八重子の名前をわざわざ出して相談するなんて変な話なのだが、この時の美鈴はなぜかすんなりと八重子の話を受け入れた。美鈴は八重子に礼を言うと、いつものように真希と理菜の元へ弁当を持って向かった。



 青龍高校国語科、高校2年担当、そして2年2組担任の交野(かたの)義行(よしゆき)。37歳、花の独身。彼は生徒に変人で有名な教職員である。身長は175センチとそこそこ高く、BMIも理想的数値であり健康的である。これはデータ上の話で、外見は全く別である。端的にいうと、平成版の太宰治である。ブラシで梳(す)いただけの髪に、目の下にはクマが常駐しており、左の胸ポケットにはピルケースがある。中身は胃薬。教職員ではなく、ストレス社会の被害者ですと紹介されれば、受け入れてしまいそうな風貌をしていた。風で吹き飛ばされそうな、儚さを持った義行だが、胸に秘めた情熱を持っていた。彼は文芸オタクだった。国語教師故(ゆえ)に文学に明るいことは、普通のことのように思えるが、彼の場合はオタクと言える訳があった。マイブームになった文学を授業で披露してしまうことがあるのだ。全クラスではないが、スイッチが入ってしまったクラスは、時折文学講義を受けることになる。昨年のマイブームは三国志だった。単元『三顧の礼』から壮大に劉備、そして劉備の子の話と、キラキラと目を輝かせながら黒板に地図を書き、道なき線路をゆく銀河鉄道の如く授業を脱線した。大好きな戦隊アニメを見ている、5歳の子どものようにはしゃいでいた。大半の生徒たちは義行の話を嫌うわけでもなく、授業の小休止として楽しみにしてた。女子生徒の中に趙雲ファンを発生させたのは義行の活躍があったからかも知れない。擦(す)り切れているようで擦(す)り切れていない男、交野義行。彼という人間は、間もなく社会の荒波に揉まれる生徒たちにとって、絶妙な魅力を兼ね備えていた大人だった。

 放課後、美鈴は八重子に言われた通りに、職員室の義行の元へ行った。義行は美鈴を知っていたが、普段は指名された時以外発言しない生徒であった為、突然の訪問に驚いた。慌てて教科書を開こうとすると、科目の相談ではない、という。

「あの、生徒の大蓮八重子さんに言われて・・・」と美鈴が言いかけると、

義行は猫のフレーメン反応の様に、さらに目を丸くして口をポカンと開けた。



お読みいただきありがとうございました。

ノア先生の次回の更新をお待ちください。

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