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外伝 さらば魔法少女たち  作者: ガルバンゾー圭人
第2章

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幕間 コン活のすゝめ(は)

 奇妙な目玉から少し外れて、雨風に晒され少し傾いた古木の電柱の下に妲己(だっき)と”ユメカワ”少女は立っていた。妲己は黒いファイルを開き、淡々と読み上げた。

「点呼します。ワナ猟で一週間前に亡くなったキツネ、もとい妖狐さん」

「はい」目つきの悪い狐が野太い声で返事をし、右手を上げた。彼は電柱にもたれ二本足で立ち、器用にも前足で腕を組んでいる。体を柱で支えているのは、四本足の生活が長く、二本足に慣れていないせいだろう。彼の海苔のような太い眉が元々カタカナのソの字に生えているので、常に表情は不機嫌だった。騙し合いが日常茶飯事のこの闇界で、自身の表情が見抜かれにくい事はなかなかのアドバンテージである。前足のびっしりと覆われた毛のせいで、挙げた右手の肉球が真っ直ぐ妲己に向けられているかは分からなかった。手のひらを向ける心理行動は、自身に敵意がないと相手に示すため、という説がある。このオスの妖狐は一見すると誠意と受けとれる動作を妲己に見せ、その反応から彼女が服従すべき相手なのかを推測(おしはか)っていた。ここ”裏世界”での点呼は、新学年の四月と同じくらい、いやそれ以上に命懸けである。なめたらあかん、学級崩壊どころではない。妲己はこれが関西の少年たちに流行する”スカす”という病か、と思った。野生のキツネの平均寿命が3−5年に対し、この妖狐は生前の寿命が享年4年と10ヶ月と比較的長生きした方である。しかし妖狐としての年月は未だ一週間にも満たない。1000年以上を生きる天狐を頂点とする狐界では、例えるには(・)い(・)は《・》いを覚えた赤子同然の存在である。実際には支えを使いながら二本足でよ(・)ち(・)よ(・)ち(・)歩いているが。妲己は赤ん坊を見る時に使う生温かい目を彼に向け、「今回は多めに見るけど、次は食べちゃうぞ」と一切の抑揚をつけずに言った。彼は自分の純白の毛並みが、妲己が正月に着る振袖の襟巻にされる光景を思い浮かべ、静かに目を伏せた。そんな彼を歯牙にもかけず妲己は点呼を続ける。

「逆輸入で数十年ぶりに帰国した、妖刀のカズマサさん」

「へい」スカした妖狐の腰に差してある、打刀が返事をした。彼は自分で歩けない為、妖狐の腰刀となって運んでもらっていた。この刀は何人もの主人を呪殺した手練れである故、妖狐は今後ともカズマサとよろしくやって行きたいと考えていた。打刀は黒い禍々しいオーラが刀全体に漂っており、まさに妖刀だった。持ち手である柄(つか)の鮫皮の部分が全て目玉になっており、それらは全て妲己の方を見ていた。複眼を持つ蜻蛉のように視力が悪いのだろうか、先ほど妲(・)己(・)の(・)方(・)と表現したが、幾つかの目は妲己の隣にいる”ユメカワ”少女の方を見ている。おとぼけた面もあるようだ。

「無事に帰れて良かったわね。長旅だったの?」妲己は眼鏡のテンプルを左手で押し上げて聞いた。

「刀狩りと称し、回収されたあっしは密売業者によって転売され、海外のサムライ好きの富豪の元を転々としました。もちろん、取り憑いて呪い殺したって奴でさあ。あっしの主人は弓がお上手でしたから、ほとんどお飾りだったってのに、主人たちは大はしゃぎして甲冑の横に飾るのなんのって」

その後、クククと、どこで勉強したのか分からない笑い方をカズマサはした。打刀は幕末に活躍するまで、主力の弓や槍が使えず、接近戦になった際に使われていた。また、彼の云う”刀狩り”とは安土桃山時代の豊臣秀吉による刀狩りではなく、戦後GHQが日本の武装解除を目的として刀剣を没収した昭和の”刀狩り”のことである。これにより多くの刀剣が破棄されたり、流出したりした。過ぎたことなので今と仕方がないことだが、歴史的価値のある刀剣もある故、それらの紛失は惜しい出来事だったと思う。妲己は社交辞令として年(・)下(・)の(・)妖(・)刀(・)に声を掛けたにも関わらず、これほど饒舌に語られたのが気に食わなかったが、陳腐なスーツの下に極上の悪意を隠し、彼の状態を知るためにも質問を続けた。

「ふうん、もしかして自分から海外に出て行ったの」

「そんなわけがないでやんす」刀の鞘からかつての主人たちの血が、ゴボゴボと吹き出していた。興奮すると鞘から何かしら溢れ出すらしい。精神衛生に大変良くない故、この刀にはどうか平常心でいて頂きたい。

「でも掟は掟だから。だいぶこの国も様変わりしたの。一度出国したなら、しばらく此処で訓練を受けてちょうだい」妲己はそう云って出席簿のカズマサと書かれた行の備考欄に”欺瞞(ぎまん)適性が高く春日局が好む”と書いた。この春日局は徳川家光の乳母ではなく、同じ名前で呼ばれた、別地方で悪霊を束ね多くの疫病や災害を起こしたある大名の妻である。掟に関しては点呼が終わった際に、妲己が説明するので私からは控えておく。彼女は次の行を読んだ。



お読みいただきありがとうございました。

ノア先生の次回の更新をお待ちください。

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