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外伝 さらば魔法少女たち  作者: ガルバンゾー圭人
第2章

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幕間 コン活のすゝめ(ろ)

 時を浄霊前夜の午前2時、美鈴が寝付けず悪霊に抵抗することを決めた時刻に戻そう。同時刻のJR大塚駅のロータリーの中心に1人の少女が立っていた。数人の柄の悪い若者達がロータリーの周辺の歩道に溜まったり、帰宅を急ぐ人がぽつぽつと駅に向かって行ったりしていた。先述した若者達の話す内容がが周辺にいる全ての人間に聞こえていた。帰宅客を乗せる為に待機するタクシーも数台いた。街がうたた寝をしているようだった。駅の北口にあるそのロータリーは、上空から見ると出口が三叉に別れており、中心部は目玉のように三重の円になっている。この不自然なまでに完璧な目玉は、まるでここから先が夜の街であると境界線を引いているかのようだった。ゆえに出入りする人々は目玉に監視されているかのような気にもなった。ちなみにこのロータリーは都市開発により形を変え、私が記したものと同じロータリーは令和に存在しない。もちろん花街も今は存在しない。

 目玉のロータリーが俗にいう”グロカワ”系とすれば、少女の服装は”ユメカワ”系だった。パステルピンクの丈が短く、フリルをふんだんに使用したワンピースに、剥き出しの白い足。足にはアニメの魔法少女が吐きそうな厚底でフリルと宝石が互角に主張し合うロリータ靴を履いていた。ただ一つ、ワンピースについた茶色い尻尾は”ユメカワ”に異議を唱えていた。深夜の大塚でこの格好の少女が歩き回ると危ない目に遭いそうだが、彼女は無事だった。彼女に触れようとした酔っ払いは触れた手が燃えて火傷となり、声を掛けようとした青年は目が合った瞬間に目の奥が焼けるような激痛が走りその場に立ちすくんだ。幾人かの勘の良い人間達は、自身の経験から少女に漂うただならぬ気配を感じ、夜の闇に気配を溶け込ませながら避けて歩いた。そんな人間達を気に求めず、自分1人だけが存在しているかのように彼女は無事にロータリーの中心にたどり着いた。

 少女は周囲に人がいないことを確認した。車専用のロータリーの中心である。人が立っているはずもない。彼女はスマートフォンを操作してフランス人のスリーピースバンドThe Pallas"s catの『Manul』を流した。そして曲のイントロが流れると、不気味な目玉の真ん中で踊り出した。この『Manul』という曲は「マヌル猫の鳴き声はなぜ可愛いのか」をひたすら英語で歌ったロックである。一部の人間達には「マヌルダンス」という名で知られており、この曲をかけひたすらマヌルのように踊ることが流行った。例えば獲物を誘き寄せるために尻尾をフリフリと揺らした。実際には人間達は尻尾を持たないのでお尻を振ったり手を尻尾のように動かしたりした。しかし、奇妙なことに少女は実際に自身の尻尾を丹念に動かしている。

 1番の歌詞が終わったその時、一瞬だけ真っ赤にロータリー全体が怪しく光り、少女の背後から拍手が聞こえた。見渡せば鎮まり返ったロータリーはそこにはなかった。まるで昼間に人間達が大塚駅を行き交うように、魑魅魍魎が歩道をひしめき合って行き交っている。江戸っ子だと言わんばかりにちゃきちゃきと歩く小豆はかり、くたびれた赤なめ、泣いている青鬼そして歯に何かを詰まらせ口を動かしている悪霊。彼らは皆どこかへ急足で向かっていた。九州から出てきたであろう、一旦木綿がロータリーの車道に止まっていた。体長が長いので後部の駐車スペースを侵害しているらしく、後ろの朧車が不満そうな顔をしている。静まり返っていた駅ビルは、血管のように張り巡らされた色とりどりのネオン灯でびっしりと彩られていた。三叉の道路をそれぞれ覗き込めば、どのくらい続くのか分からないくらい居酒屋の赤提灯が連なっている。これは単発バイトによって集められた客引き用の提灯お化け達である。そう、大塚という街にはもう一つの顔があった。妖怪達が深夜に集まり生活しているのである。この事実は日本に住む大半の異形のもの達と一部の人間達しか知らなかった。この世界を彼らは”裏世界”と呼んだ。現世と”裏世界”を繋ぐ入り口は例の目玉である。ここで特定の時間に指定された行動を取ることで”裏世界”に入ることができる。令和の今では場所と暗号が変わっている故、同じ動作をしても”裏世界”に行くことはできない。やむ終えない理由がない限り、決して深夜に街を歩かないでいただきたい。全国各地に点在するこんな”裏世界”に迷い込んでしまうこともあり、闇界で生きる非情な彼らに人間だと分かれば危ない目に遭うかもしれない。少女が無事なのは、ここまでの道中で人間達を悉(ことごと)く妖しい力であしらい”裏世界”の住人と同じ冷酷さを胸の内に抱えた人ならざるものだからである。そういう”ユメカワ”少女はある意味で選ばれし者だった。

「ごきげんよう。可愛い新人さん」

拍手の主である黒いスーツを着て、黒縁眼鏡をかけた女性がそう言った。この女性が妲己である。妲己は少女にこう告げた。

「合格よ。難しい方を選んだわね。でも『こぎつねこんこん』を歌っても良かったのよ」

少女はもじもじしながら小声で答えた。

「でも妲己様はキツネですから、原曲の内容が宜しくないのではと思いまして・・・」

妲己は裂けんがばかりに口を開き、大声で「そうね!あのドイツ語は気に入らないわ」と言った。

人間の女性には備わっていない、彼女独自の恐ろしい本性が垣間見えた瞬間だった。




お読みいただきありがとうございました。

ノア先生の次回の更新をお待ちください。

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