↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外伝 さらば魔法少女たち  作者: ガルバンゾー圭人
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/17

第11話 黒塊(こっかい)

 長い説明の後、義行は美鈴と百合子にこう言った。

「ーーーつまり、要件が後になって申し訳ないのですがーーー現在の橘さんは憑依が疑われます。特別指導部顧問として、部員に浄霊させていただけないでしょうか」緊張のあまり、義行は発言の後半が早口になった挙句(あげく)、語尾を「しょうか」ではなく「しょか」と言い間違えた。

「はい?」百合子は義行の申し出に対し、彼の頭から足の爪先まで疑問を抱いた。義行はピリピリした空気を感じ、肩をこわばらせた。

「先ほど、ご説明した通り、”あかきこころ”では若い巫覡の育成事業として、協力校で支援活動を行なっております。その支援活動の一環として、青龍高校特別指導部では、部員達に実践活動をさせています。”実践”とは主に”あかきこころ”に依頼された内容のうち、比較的安全な依頼を実際に巫覡の1人としてこなすことです」

 義行はズボンのポケットからクマのぬいぐるみが刺繍されたふわふわのタオルハンカチを取り出し、額の汗を拭って続ける。恐らく柔軟剤のフワーワを使っているのだろう、最近街でよく嗅ぐ海外製の強いシャボンの匂いが美鈴と百合子の元までふわっと届いた。美鈴はこの香りに少し癒された。

「ーーーもし、可能でしたらーーー顧問である私も浄霊に同席いたしますので、橘さんに憑いている霊を生徒に祓わせていただけないでしょうか」

「・・・・・」「・・・・・」百合子と美鈴は2人で沈黙した。

義行は眉をハの字にして、不味いことを言ってしまったと思い、机に目線を落とした。生徒指導室にある秒針はカチカチと非情にも時を刻んでいた。

「ーーー安全ですか」30回ほど秒針が鳴った後、百合子が口を開いた。百合子の厳しい顔つきは亡くなった卜部の曽祖父と瓜二つだった。今、百合子がしている、非であれば即座に義行を八つ裂きにせんと見つめる、鋭く見極める虎のような目は、曽祖父が在りし清明会で死闘を繰り広げた際に見せたその目だった。義行はこれに真剣に答え、百合子の目を見て「安全です」と言った。人畜無害故(ゆえ)に食べないでくれ、とも言っているようだった。

 なぜ百合子が唐突な浄霊の提案に怪訝(けげん)な顔をせず、その安全性を聞いたのか、これには理由があった。百合子は卜部(うらべ)の血を引くものとして、生まれつき霊感があった。しかしながら、初心者の巫覡が最初に目覚めやすいとされる能力、”見鬼(けんき)”しか備えていなかった。見鬼(けんき)とは超自然的存在を見る能力のことである。一言で見鬼と言っても、視認できる対象や見え方は巫覡の能力による。では百合子は三界の神々、仏、霊、魔物、悪魔、そして生きた人の魂など、何をどのように見ることが出来るのか。ちなみに三界の神々とはあの世を構成する三界、宇宙界、光界、闇界に属する神々のことである。百合子の見鬼の能力は憑依霊をうっすらとしたも(・)や(・)で感じる程度のものだった。これをすごいと思う読者もいるかもしれないが、巫覡の中では初心者とも言えない、求道(ぐどう)の道にようやく片足を踏み入れた程度のものである。はっきり言うが大した能力ではなかった。

 だが、その片足程度の能力は、愛娘(まなむすめ)の異変を察知するのに十分だった。この時の美鈴は背中にドス黒いも(・)や(・)を抱えていたのである。実のことをいうと、百合子はこの数ヶ月間、時折彼女の背中にも(・)や(・)がついている光景を何度も見ていた。一度近所の八坂神社にお祓いに行ったほうが良いかもしれない、と考えたこともあったが、しばらくするとも(・)や(・)が消えていたので、その必要はないと毎度思い直した。大した問題ではない、思春期の一時的な問題だと思っていた矢先、この4月から美鈴が保健室で休んだり、学校を早退したりするようになった。百合子は美鈴の体調不良を聞く度に、も(・)や(・)が一過性の憑依ではなく、もっと大きな事が背後にあるのではないか、という疑念が強くなっていた。そこで彼女は義行の電話を貰う前に、「学校から次に倒れたと連絡を受けた時は、卜部の祖父に旧清明会の関係者と連絡が取れないか相談しよう」と考えていたのであった。義行の提案は百合子にとって満更(まんざら)でもなかった。連絡を取ろうと思ったあの旧清明会の後身と思ってもない形で縁(えん)を貰ったからである。ただ、浄霊と言っても巫覡によって方法が様々である。長時間に及び霊媒として、美鈴が座らされたり、憑依に負けて悲惨な事故が起こったりするのではないか、と百合子は心配であった。これまでの義行の様子をみるに、彼は名刺を重ねて出したり言い間違えたりと気弱で落ち着きのない面があるが、電話の対応や清明会に関する丁寧な説明から生徒である美鈴とその保護者の百合子が組織や部活について納得した上で浄霊の承諾が欲しい、という誠実な一面もあると百合子は感じていた。義行の人柄でどうして命に関わるような危険な浄霊を生徒に行わせるだろうか。念のために「安全ですか」と百合子は聞いたのだった。義行の解答は百合子を納得させるのに十分だった。美鈴と百合子は義行の提案を受け入れた。




お読みいただきありがとうございました。

ノア先生の次回の更新をお待ちください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。