↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄よ、空に眠れ  作者: 木戸陣之助
呪われし都

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/50

第四十一話

 ぼろ切れみたいな服を纏って、二つに結った不自然にきれいな黒髪。良い生活をしているようには見えない、エウレルとは違う小さな背中。

 頼っていいわけがない。背負わせちゃいけない重荷なんだよ。それなのに、なんで。


「おかしいよ。ねえ、なんでみんなそんなに強くいられるの? あんなにしんどいことがたくさんあったのに。わたし、わからないよ」

「……こっちのセリフだもん」

「えっ」

「みんなさ、ほんとうはとーってもつらいのに、がまんしていたんでしょ? あたしのために」

「それは……ちがうよ。これは、わたしが決めたことだから」


 これは全部わたしのせいなんだ。甘いから、未熟だから。それだけ――


「お姉ちゃんが決めたことは、全部お姉ちゃんがどうにかしないといけないことなの?」

「そうだよ」


 ……それが大人としての責任だから。


「それっておかしくない?」


 そんな矜持はあっさりと切り捨てられた。堂々と言い切る背中に目が逸らせない、思わず息を呑んだ。


「本当にそうなんだったら、何かを決めるなんてしない方がいいじゃん」

「それは……でも、そうしないと前には進めないから」


 小さな背中は語る。


「あたし、何もしてないけど毎日つらいもん。ひとりってさ、さびしいんだよ。隣に誰かいてもさ、誰も見向きもしないでいなくなっちゃうの。目も合わせてくれない。声もかけてくれない。振り向いてもくれない」


 つらい、つらい毎日だったのだろう。


「それを助けてくれた人が、どうしてつらい思いなんてしないといけないの?」


 何も言えなかった。わたしには、質問の答えを持ち合わせていなかった。

 しかし、目の前の女の子は、堂々と背中で語った。


「あたし、お姉ちゃんに声かけたこと後悔してない。悪いかな、って思っても、悪いことだと思ったことは一度もない!! お姉ちゃんはさ、あたしに話かけたこと……その、ずっと後悔しているの?」


 思い出す、この子の声に耳を傾けたときのこと。

 言われるがままに路地裏を突っ切って、本当なら真っ直ぐ進むべきだった道からそれてしまったのが、事の始まり。

 言われたことを守れなかった、のはその通りだと思う。運が良かったのかもしれない。けど、結果的にエウレルは元気になったし、その間に雨風だってしのげた。新しい冒険記だって読ませてもらったし、はじめてエウレル以外の人とお話できた。

 わたしだってずっと寂しかった。誰かに見つかってほしくて。誰かと言葉を交わしたくて。ひとりになりたくなくて。


「そっか」


 そんな毎日にわたしは後悔した? 旅なんて始めなければよかったって、心の底からそう思った?

 答えは、決まっている。


「ううん、していない。後悔なんて、これっぽっちもないよ」


 辛いものばかり見せられて、ほんとうにだいじなものを見失っていた。この世界はあまりに過酷だから、自分を守るので必死すぎたんだ。

 ようやく霧が晴れた気がした。

 

「ほんと!?」

「うん」

「よかったあ!! やっぱりさ、いっしょにいるのにお話しないなんてさびしいよ」

「……そっか、そうだね」


 そうか。わたしたち、話をしているようでしていなかったんだな。

 この子のこと、知っているようで知らなかった。かわいそうな子って勝手に決めつけて、守らなきゃって思い込んでた。でも、本当はわたしなんかよりもずっと強くて、ちゃんと寂しさと向き合ってきたのかもしれない。


「ねえ、ちょっとさ。聞いても良い?」

「いいよ!!」

「ここまで来るのに……その、すごく大変だったと思うんだ。それでもさ、途中でやめようって思わなかったの?」

「それは思ったよ。やっぱり、みんなたいへんそうだったし、悪いことしちゃったなって」

「悪いこと?」

「うん。あんな風に人が化けものになっておそいかかってくるなんて、見たこともなかったんだ。あたしの時は何を言っても返事が来なかったから……そういうものなんだろうって思ってたの」


 ……これはもう、答えを言われたようなものだと思う。それでも怖いとは思わなかった。

 わたしは今、この子と話が出来ている。顔を合わせることは出来なくても、言葉はちゃんと通じあっている。


「ごめんね。むしろ、危ないことに巻き込んでしまったんだね」

「ううん。確かに怖かったけど、あまり心配してなかったんだあ」

「……どうして?」

「だって、お姉ちゃんたちが守ってくれたから」


 どうして。


「やさしいお姉ちゃんたちが元気じゃないなんて、そんなのいや!! ぜったい、ぜーーーーったい、いやなんだもん!! だから、元気になるまであたしが元気になるのっ。だから……」


 どうしてこういう時に人の顔が見れないんだろう。

 ――いいや、そうじゃない。今考えるべきことは出来ないことを悲しむことじゃない。言葉だけじゃなくて、もっと他にあったはずだ。気持ちを伝える方法が。

 人の顔を見るだけが全てじゃない、本当に大切なことは。


「ありがとうね」


 そう言って、後ろからそっと抱きしめた。


「お姉ちゃん?」

「元気になったよ。ごめんね、ちょっと悲しくなっちゃって」

「もう、大丈夫なの?」

「うん。もう、歩けるよ」


 腕を解いてその場で立ち上がる。さっきまでもう動けないと思っていたのに、心なしか体が軽くなった気がする。


「こんなところで、止まっちゃだめだよ。ぜったい、後悔するよ」

「そうだね。ちゃんと、エウレルとも話をするよ」

「そうしよ!! きっと話せばわかるから」

「ちゃんとお母さんも見つけようね」

「うんっ、うんっ!!」


 転んだら休んでもいい。分かり合えなかったら話せばいい。わかったような気にならないで、ちゃんと向き合うんだ。

 そうやって先を歩いていると、ついに陸橋の最後が見えてきた。現れたのは相変わらず廃墟と化した街並み。高く伸びた建物にはガラス窓が相変わらずたくさんで、表面がはがれて中がむき出しなものも少なくなかった。地面も変に盛り上がっているせいか、亀裂が走っている。傾いた鉄柱もたくさんあった。

 中に入れば、行き倒れた人もきっとたくさんいるんだろう。その人たちはやはり魔獣で、きっとまた胸が苦しくなるんだろう。

 それでも、


「エウレル、ごめんね」


 われ先に突っ走るのが玉に瑕(きず)だけど、大切な仲間だから。

 ちゃんと謝ろう。そして、ちゃんと迎えに行く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。