↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄よ、空に眠れ  作者: 木戸陣之助
小さきもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/26

第十話

 夕日も落ち、空が黒く染まり始めたころ。

 透き通る青さは夜によって塗りつぶされ、息をひそめていた小さな光がふつふつと沸き上がった。それは深みを増すほどに産声を上げて、色とりどりの輝きを解き放つ。中にはその場に留まることをせず、線を描くように黒い海を泳ぎまわっていた。

 ロイは空が好きだと言った。そんな彼はこの黒い世界を見て、胸を高鳴らせたのだろうか。それとも、やはり恐怖でそれどころじゃなかっただろうか。

 まあ、わたしもそれどころじゃないんだけど。見上げた空を、草原に戻す。


「ふう、寝床を作らなきゃ」


 夜という視界の悪さで開けた場所を歩くのは自殺行為だという。冷える季節だと魔獣はそう活性化しないらしいけど、完全に寝静まるわけではないそう。

 とはいえ、人ひとりがちょうど良く寝付けそうな隠れ場は見当たらない。


「……困ったな」


 たしか、冒険記でも似たような場面があったはずだ。本では水辺のある高地を探していた。水の流れるような音はする。音を探しながら辺りを見回していると、奥の方に草原を分断する大きな川が見つかった。川まで歩いてたどり着くと、そこは砂利道になっていて、水の流れも心なしか速かった。砂利道の上には獣が群れを作って歩いていた。そのうち何体かは水を飲んでいる。


「石が流れ着いてるってことは……たぶん、どこかに崖があると思うんだけど」


 全部冒険記や地理学の本の受け売り。外れていたら、は考えない。

 しばらく川辺を歩き回っていると、砂利道と斜面に伸びる草原という二つの道に分かれた。このまま草原を進んで高台になるとしたら、砂利道には岩壁があるかもしれない。そこに穴を開ければ――

 その予測は的中し、砂利道と草原の間には段差が生まれ、先へ進むとごつごつとした岩壁が現れた。


「今日は、ここにしよう」


 背負った荷物を地面に置くと、どさりと音がした。すっと体が軽くなる。


「よし」


 壁に手をかざし、詠唱を唱える。


メイク・ア・ホール(穴を開けろ)


 岩壁がぼんやりと橙色に光ると、小さな傷が刻まれ、その後すぐに人ひとりが入れる程の穴をくり抜いた。荷物を引っ張って穴の中に入れる。そこまでやって、ようやく一息つくことが出来た。……よかった、成功した。

 と思ったのも、つかの間。

 体のあちこちから、チクチクと痛みが走った。次第に全身へと広がって、立っているだけでしんどくなる。このまま外にいるのは危ない、どうにか体に鞭を打って穴ぐらに入り込む。しばらく座り込んでいると痛みは引いた。代わりにじんわりと眠気がやってくる。

 そこでようやく、自分が疲れているのだと知った。


メイク・ア・ウォール(壁を作れ)


 なけなしの力で詠唱を唱える。地面から土壁が沸き上がると、穴を塞ぐように一面を埋めた。何も見えなくなったので小さい穴を開け、光の通り道を作る。とりあえず、最低限の準備は終わった。全部行き当たりばったりなのは良くないかも。でも、上手くいったならいっか。

 そんなことよりも、眠たくて仕方ない。だめだ、逆らえな――

 そこでわたしは意識を手放した。何も考えられなかった。


 翌日。

 体が痛い。目覚めたのは痛みのせいだと知る。体を丸めていたせいだ、窮屈で仕方ない。仰向けで寝られた家のありがたみを知った。次は、もうちょっと深く掘ろう。

 そう言いながら、作った土壁の穴から外をのぞき込む。いきなり外に出てはいけない、というのも冒険記の教えだった。幸い周辺には何もいない、魔法で土壁を取り払う。すると新鮮な空気が流れ込んで、体を冷やした。


「さ、さむい」


 そう言った直後、お腹の中が急に熱くなった。次にぐうと音が鳴る。そうだ、昨日隠し部屋を出てから何も食べてない。非常食は……


「だめだ、今使うのはさすがに……」


 冒険記によると魔獣しか出ず、食料の調達が困難な地域もあるらしい。

 非常食は本当に食べるものが無い時に使う。冒険記に口うるさく書かれていたのを思い出した。とはいえ、体も痛いし外を出歩くのはおっくうだ。

 どうする?


「……やろう」


 もう、困ったら助けてくれるお父さんはいない。今のうちに出来ることを増やさないと。今より過酷な場所はきっと来るはずだから。

 穴ぐらを抜け出し、重くなった体を起こす。視界は明るい、日差しがちゃんと照らしている。体はやっぱりチクチク痛む、でも歩ける。せめて痛みを強く刺激しないように、気を付けてわたしは川辺へと歩き、水流に指先を入れた。


「冷たっ」


 氷でも触ってるみたい。眠気も一気に醒めた。その時、


「あっ」


 ちゃぽん。

 水面から何かが飛び上がった、魚だ。


「メイク・ア――、あれっ。いなくなっちゃった」


 おだやかな水流に戻った。水面の底には魚の姿がゆらめいている。飛び上がる様子はなさそう。どうやって取ろう……その時、

 ちゃぽん。

 魚だ。


「メイク・ア――」


 また、水辺に沈んだ。ダメだ、魔法を打つ余裕がない。どうやってあの魚を捕まえよう。飛び跳ねて逃げる相手だ、少なくとも工夫は必要。

 冒険記にも魚釣りだったり、魔法を使った狩猟の様子は載っていた。でも、釣り竿も無ければ、どんな魔法を使ったかまでは流石に記されていない。じゃあ、釣り竿を作る? 壁だったり穴を作れたんなら出来るかも――さっそく、詠唱を唱える。


「メイク・ア・つりざお」


 川のせせらぎが聞こえる。


「あれっ……メイク・ア・つりざお」


 川のせせらぎが聞こえる。ずっと、それだけ。それから何回か同じように魔法を唱えてみたけど、何も作られなかった。思わず肩を落とす。

 そりゃあそうだ。釣り竿って、よくよく考えたら詠唱でどう言えばいいの。壁だったら『ウォール』だし、穴だったら『ホール』だった。全部魔法学の本の一例に載ってたからそのまま使えた、けど釣り竿は無理。多分、詠唱用の言葉に置き換えないといけないんだ。


「……どうしよう」


 旅に出て二日目。早速、ピンチかもしれない。

ここまで、ご覧いただきありがとうございます。

ブックマーク、高評価お待ちしております!!

広告の下にある★マークを「☆☆☆☆☆⇒★★★★★」にいただけると、ありがたいです!!

非常にモチベーションがあがります!!


レビュー、感想もぜひ頂ければと思います。どうぞ、よろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。