第167話 終わらない戦い
――ぶつかり合う。
深淵の主と、
この戦場の頂点。
ノー・アイズ。
その巨体へ――
四つの影が、同時に踏み込む。
「散開して叩くぞ!」
バルバスが短く言う。
次の瞬間。
四方向からの挟撃。
バルバスが大振りの一撃を叩き込み、
アッシュが軌道を制御し、
グレイスが死角へ回り込み――
そして。
エクセイルの槍が、穿つ。
ズバァッ!!
触腕が――裂けた。
黒い魔力が噴き出す。
「一本!」
「このまま続けるぞ!」
間髪入れず、次。
ノー・アイズの触腕がうねる。
だが――
「遅い」
エクセイルが踏み込み、
バルバスが叩き落とす。
そこへ。
グレイスの一閃。
アッシュの一撃。
ズンッ!!
もう一本が、断ち切られた。
――残り、二本。
「……順調、か?」
アッシュがわずかに眉を寄せる。
確かに押している。
だが――
(妙だな……)
グレイスの目が細まる。
抵抗が、薄い。
まるで――
♢
「押し返せぇぇッ!!」
別戦線。
シルバー級を中心としたダイヴァーたちが、小型海魔の群れを押し返していた。
「行けるぞ!大型はもういない!」
「このまま削り切れ!!」
負傷者は多い。
だが――
戦線は、維持できている。
むしろ、押し気味だ。
「ナナミ!左!」
「うん!」
ホープが抑え、
ニーナが崩し、
ナナミが突く。
3人の連携は、崩れない。
(いける……!)
このまま――
♢
――ォォォォォォォォォォォン……!!!
その時だった。
深海を震わせる咆哮。
「……ッ!?」
全員の動きが、一瞬止まる。
ノー・アイズ。
その巨体が、大きく反る。
残った二本の触腕が――
空を、裂いた。
そして。
“呼んだ”。
ズズズズズ……ッ
暗がりの奥。
左右から。
影が――迫る。
「な、なんだ……!?」
誰かが、声を震わせる。
次の瞬間。
現れたのは――
巨大なイカ型の海魔。
コロッサル・スクイード。
その数――
「……五体……!?」
絶望の声が、漏れる。
さらにその背後には、
無数の小型海魔。
「くそっ……まだ呼びやがるのかよ!!」
戦線が、揺らぐ。
消耗は、すでに限界に近い。
この数を――抑え切れるのか。
動揺が、広がる。
♢
「……やるしかねぇな」
ガンツが、一歩前に出た。
銛を構え、
迫る巨影を睨む。
「やれることをやる」
低く、言う。
「オレとルキアで一体」
隣で、
ルキアが静かに頷く。
「……問題ない」
そして。
振り返る。
「ホープ、ニーナ、ナナミ」
視線が、三人を射抜く。
「お前らで――一体、いけるか?」
一瞬の静寂。
だが。
「……うん」
ナナミが頷く。
「やるしかないでしょ」
ニーナが笑い。
「任せて」
ホープが、盾を構える。
覚悟は――決まっている。
だが。
「……しかし」
ネーレウスクランのシルバー級が、歯を食いしばる。
「それでも数が……足りねぇ……!」
残り、三体。
そして、小型の群れ。
このままでは――
♢
その時。
別方向から、水を裂く音。
複数の影が――さらに突っ込んできた。
その一団は一直線に、
海魔の群れへ突っ込んだ!
ドォンッ!!
激突。
群れが、大きく揺れる。
「なっ……!?」
振り向く。
そこにいたのは――
「応援に来たぞ!」
ダインだった。
その背後には、
ライアン、ジャンヌを含めたバニッシュクランのダイヴァーたち。
十名近い戦力を引き連れていた。
「遅れてすまない!
ポーションも多めに持ってきている!」
その一言。
戦場の空気が――変わる。
「……来やがったか!」
「やったぞ!援軍だ!!」
歓声が、上がる。
沈みかけていた士気が、
一気に跳ね上がる。
「行けるぞ!!」
「あと一息だ!押し返せぇぇぇッ!!」
ダイヴァーたちが、再び踏み込む。
戦線が――盛り返す。
♢
「……美味しい時に来るじゃねぇか」
ガンツが、獰猛に笑う。
「やるぞ」
「……」
ルキアが応じる。
ナナミもまた、
槍を握り直す。
(まだ……終わらない)
むしろ。
ここからが――本番だ。
視線の先。
ノー・アイズ。
残る触腕、二本。
その奥で――
何かが、蠢いている。
――戦場は、再び動き出す。
⸻続く




