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救世主求ム。詳細は村長へ。  作者: にしすけ
第二章 勇者ロビン
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ナシフ村改造論

勇者一行が村や町を訪れること。


この世界においてそれは観光や鉱工業と並んで語られるほどの一大産業である。勇者一行が地元産業に与える影響は計り知れない。それは町に2、3日でも逗留するとなると巨額の金を落としていくからだ。


まずは宿屋だ。勇者達は一泊するだけで体力と魔力を全回復させることは広く知られているが、それはそれくらい豪遊するからだということを知らない人は意外と多い。

普段は何ヶ月にも渡って人里離れて身を危機に晒している分人恋しくなっているのだろう、彼/彼女らは思う様遊ぶのである。冒険者の酒場、カジノ、そしてぱふぱふ。


ある調査によると(巻末の参考文献参照)、勇者一行が一日で宿屋とその関連施設で消費する貨幣は一人当たり平均して1万ゴールドにも及ぶ。これは世界の住民の年間平均所得の10倍にも相当する。


――『誰にでもわかる勇者の経済学』より抜粋


「村を救った勇者殿に乾杯!」

「おおー!」


村役場ではささやかな宴会が開かれていた。それは村を救った英雄、勇者ロビンとそのパーティ(5人)をもてなす会であるが、そこには単純なお祝いムードだけではない様々な思惑があった。


「村を救った勇者には埋蔵金が与えられると聞いたが……」

「こんな寂れた村にそんな夢みたいなことがあるか?」

と勇者サイドではひそひそ話ではあるが早速金の話をおっぱじめている。


「この勇者は本当に魔王を倒してくれるんじゃろうな?」

「埋蔵金をあげちまった日にゃ持ち逃げされるのでは?」

と村サイドは村サイドで早速山奥の村人らしい偏狭さを発揮していた。

「まあ、埋蔵金は完全に村長のでっち上げですけどね」

とコルビンは一応突っ込んでおくことを忘れなかった。


何はともあれ双方がこんなであるので、宴会もどこか盛り上がりに欠ける。夜8時くらいにはポツポツと帰る者も出始め、やがてお開きとなった。


「さて」

「さて」


と言い出したのは勇者側、村側が一緒であった。

「村長、わかってるでしょうね」

コルビンは村長にそっと釘を指しておく。村からすればここからが勝負だ。この世界で公務員をやっている人間ならば勇者の経済学は必ず知っている。

「もちろんじゃとも」

心配するな、とばかりに親指をぐっと上げて見せた。

「やれやれ。何か現実的すぎて幻滅ねえ」

とアカリ姫はつぶやく。


「さあさあ勇者殿、遠路はるばるお疲れでございましょう。こんな村ですが宿屋もないわけではございません。お部屋をご用意させていただいておりますのでご案内いたしますじゃ」

「い、いや。それは……」

と勇者ロビンは及び腰だ。勇者からしても正直言ってお金は大切なので、あまりどうでもいいところで使いたくないというのが本音だ。とはいえ村の人間から歓待を受けているのに寝る段になるとわざわざ村の外で野宿というのも気まずい。ここら辺の微妙な人間の機微を察知しうまく立ち回ることも勇者に必要な要素の一つといえる。


「村の皆は知っているだろうが、この村は今非常に危うい状況にある。デーモンが突然村の広場に現れたことからわかるように、常に魔王の脅威にさらされている。我々は勇者の一行として、村はずれにて寝泊りし外敵を身をもって食い止めるつもりだ」


「むう。今回の勇者殿は強敵だわい」

と村長。しかしここで黙って下がっては村の繁栄など程遠い。


「いや勇者殿、よいではないですか。今日敵襲があったのだから、もう当分襲撃はありますまいて。我が村の救世主様を歓待させていただきたいのですじゃ」

「その通りです」

その後コルビンも加わり激しい交渉が始まった。勇者側は村民の激しい主張に押され、仕方なく宿屋に泊まることになったのだった。魔物相手とはまた違う戦いがある。まずは村側が一勝であった。


「ご苦労だった皆の衆!これから飲み直しと行こうではないか!」

「よっ!村長!」

「見直したぞー!」

そうして内輪での祝勝会が始まった。

「まったく。人が死んだって言うのにデリカシーがないのここの村の人たちは?!」


「はじめ、まして……」

職員達に混じって、そこには黒髪の綺麗な女の子がいた。年柄はアカリ姫より数歳下くらい。17、8であろうか。村長がやってきてその頭に手を置いた。


「よく来たヴィスワ」

「あらら、孫娘さんですか?」

「馬鹿モン!」

村長の怒りが飛ぶ。しかし本気でないといった風で、その証拠に目じりは下がっている。

「わしも結婚するのが遅かったのでな。娘じゃよ、娘」

「え?村長って娘さんがいたんですか?ぜんぜん知らなかった!」

「そりゃそうじゃろう。何せ都会の学校に通わせておったからな。こっちに来ることになったんじゃよ」

「いやそれ最悪の父親じゃないですか。何でまたこんな危険なときに呼び寄せてるんですか」


「何故だかわかるか?コルビンよ。」

突然村長の目がマジになる。たまにこういうことをする。コルビンはどぎまぎして何も答えられなかった。

「そろそろわしにも孫が欲しい」

「はあ」

「で、後はわかるな?」

村長は再びコルビンを見つめた。コルビンも注意深く村長を見返した。


「……」

「……」


「…………」

「…………」


「おお、息子よ!婿養子よ!」

「違う!誰が息子だ!離れてください、触らないでください!そもそも娘さんの気持ちを慮ってあげてください!」

「……ぽっ」

「ぽっ、じゃないわよ!何この子!色目使ってるんじゃないわよ!」

「まあまあアカリ姫。その言葉使いではどちらがお姫様なのかわかりませんな」

「まったく意味のわからないことをごちゃごちゃ言うわね」


そして村長は高らかに宣言した。

「と、いうわけでヴィスワを助役付けとする!」

「なっ!?」

「と、いうわけってどういうわけよ!わたしは認めませんからね!」

「姫はブリギット王国の第一王女にあらせられる」

「それが何か?!」

「こんなしょぼくれた村で終わるような人生でもあるまいて。きっとどこかの国の王子様と結ばれるに違いありませんじゃ。それともコルビンが気になっておられるのか?」

「なっ!」

この糞爺はこれだから、とコルビンは思った。言葉をオブラートに包まず露悪的ないやらしさで話をまとめようとする。


「そんなわけないじゃない!こんなしがない村の助役なんて!おまけに臆病だし、チキンだし!攻撃魔法使えないし!常にぼけーっとしてるし!」

何か必要以上に攻撃されているような気がしてコルビンは少しへこんだ。アカリ姫も少々言い過ぎたと後悔したらしい。

「ごめんね、コルビン。あなたにだって良いところはたくさんあったわね。ええと……」


「……」

「……」


「ごめん!」

いったい何がごめんなんだ!とコルビンは叫びたい。火傷した背中に唐辛子入りの軟膏をすり込まれたかちかち山のたぬきの気持ちがわかる。今なら世界で一番わかる自信があった。


適当に笑っていた村長だが、その笑いを納め、またもやすっと真顔になりこう言うのである。コルビンは普段村長を馬鹿にしているが、この一瞬の表情の入れ替わりは苦手だった。


「ともあれ、村が勇者を受け入れる体制を整えるにあたって色々忙しくなっていくじゃろう。助役付けとして姫だけでは手が回らないことも考えられる。いつ国に連れ戻されるかわからないというのもあるしのう」

「まったく。こんなときだけまともなことを言うんだから」

「そこで、正式にヴィスワを助役付けに任命する。がんばるのじゃぞ、娘よ!」

「……がんばります!」と両手で小さくガッツポーズ。くそお。かわいい。とコルビンは思った。なおここまでコルビンは外面上はほぼポーカーフェイスである。


「ヴィスワさんには何をしてもらおうかな?」

「それも決めてある!これを見よ!」

そこには村の周辺地図が書かれている。

「まずは村を囲う立派なバリケード、それに大きな宿屋、次に病院がいる。さらに都会とのアクセス向上を目指して広い道も必要じゃ。そういった土木関係の仕事を娘にやってもらおうと考えておる。わしのコネと人脈は土木関係に偏っておるのでな。すべてヴィスワに引き継いでおいたから安心せい!」


「……よろしくお願いいたします!ヴィスワです」

はーっとコルビンとアカリはため息をついた。まったくこの村の連中ときたら、魔王に滅ぼされるかもしれないというのに能天気なものだった。


「とりあえず予算審議会で予算を通してからですね。言っときますが僕は一切協力しないですからね」

「ひどい!息子よ!」

「だから誰が息子ですか!」


アカリはげんなりした気分でこの下らないやり取りを眺めていた。

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