第6話 狂乱のホストクラブ
ホストクラブ【エデンの園】のVIPフロア。
照明が派手に明滅し、軽快な4つ打ちのビートがスピーカーからフロア全体を揺さぶる。
テンポ128、どこまでも明るく開放的なCメジャーのハウスミュージック――『Zero-sum Majesty』。
「きゃははっ! なにこの曲、超アガるんだけど!」
ユウキはシャンパングラスを片手に、ソファの上でノリノリで腰をくねらせていた。手に入れたばかりのブランド物を誇示するように揺らし、取り巻きのホストたちに酒を注がせては下品に笑い声を上げる。
「ほらほら、どんどん開けて! 今夜の私は女王様なんだから! 金持ってるから私を見て!」
その姿を、卓の端に座っていたホストのひとりが、冷めた目でスマホの画面と見比べながらクスリと嘲笑した。
「……ねえユウキちゃん、その曲、誰のために作られたか知ってる?」
「えー? 知らない! 私のための曲でしょ? だって『マジェスティ(尊厳)』って言ってるじゃん!」
「違うよ」
ホストは吹き出しそうなのを堪えながら、グラスを弄んだ。
「これ、裏で回ってきた新曲。『零和の尊厳』って意味。財布の中身が綺麗に0円のくせに、他人の金で女王様ぶって踊り狂ってる哀れな地雷女を笑い者にするために作られたネタ曲だよ。ほら、歌詞のサビ……『残高ゼロのパチモンクイーン』だってさ」
周囲のホストたちが一斉にクスクスと肩を揺らし、フロアの視線が一瞬にして嘲笑の色に染まる。
「……は?」
ユウキの動きがピタリと止まった。
脳内で曲のタイトルの意味が繋がった瞬間、全身の血が逆流するように顔が真っ赤に沸騰する。
「な、なにそれ……! ふざけんじゃなわよ! あんたら、ころしてやる!!」
プライドの風船が破裂したユウキは、手にした高級シャンパンのボトルをそのままホストの側頭部へ振り下ろした。
ガシャアンッ!という破壊音と悲鳴。飛び散るガラス片と血飛沫。
フロアがパニックに陥り、怒号が飛び交う――その刹那。
バァンッ!!
重厚なVIPルームの扉が、蹴り破られるようにして左右に弾け飛んだ。
耳をつんざく喧騒のど真ん中に現れたのは、場違いなまでに洗練された二つの影。
白のジャケットに漆黒のシャツを纏ったレム判事と、黒の現代的なジャケットにチェック柄ネクタイを締めたレンブラント中佐。
冷気を纏った菫色の双眸が、血まみれで喚き散らすユウキを正確に捉える。
「……随分と賑やかな茶番ですね」
レム判事の氷のような声が落ちると同時に、レンブラント中佐の長身が音もなく滑り込み、ユウキの逃げ道を完全に塞いだ。
取り巻きの男たちが恐怖で後退り、フロアの音がスーッと遠のいていく。
暴虐と虚栄に塗れた『0円女王様』の個室は、一瞬にして逃げ場のない断罪の檻へと変貌した。




