第2話 友人達の引っ掛かり
夕暮れのファミレス。ドリンクバーのグラスに浮かぶ氷が、カランと虚ろな音を立てて溶けていく。
テーブルを囲むユキコ、アキコ、ミサトの表情から、いつもの穏やかな色は完全に消え失せていた。テーブルの中央には、それぞれのスマートフォンと、開かれたままの紙の通帳が並べられている。
「……ねえ、これ、本当におかしいよ」
最初に沈黙を破ったのはユキコだった。指先で指し示したレシートの束には、自分が身に覚えのない深夜のコンビニ決済や、見知らぬオンラインショップの引き落とし履歴がびっしりと並んでいる。
「最初はさ、『ちょっと持ち合わせがないから』って千円札を渡しただけだったの。あの子、いつも困った顔して笑うから……でも、財布をテーブルに置いて席を立った隙に、抜かれてた。抜かれた額より、あの子のあの『当たり前』みたいな顔が、ずっと頭から離れないの」
「私の電子マネーもよ」
アキコが苦々しく眉をひそめ、スマホの画面を伏せるように伏せた。
「『難しいことわかんない』って笑いながら、私の指紋認証の画面をじっと見てたの。あの時は冗談だと思って流したけど……次の日、限度額いっぱいまでチャージされてた。あの子にとって他人の金は、道端に咲いてる花を摘むくらいの感覚なんだわ。『借りる』んじゃない、『掠め取ってる』のよ」
「……極めつけはこれ」
ミサトが冷え切った声で、通帳の最後の行を叩いた。そこには、数日前に纏まった額が引き出された記録が、無慈悲に印字されている。
「暗証番号、あの子に教えた覚えない。でも思い出したの。先週、私の部屋で遊んでたとき、私の誕生日とかペットの名前をしつこく聞いてきた。あの無邪気な顔の裏で、全部計算して試してたんだと思うと……背筋が凍る」
三人の中にあった「ちょっとおバカで憎めない友達」という像が、音を立ててガラガラと崩れ去っていく。
残されたのは、親愛の情を隠れ蓑にして他人の生活を食い荒らす、得体の知れない寄生虫への冷たい嫌悪感だけだった。
「もう、友達ごっこはおしまい」
ミサトの瞳に、暗い決意の光が宿る。
「警察に突き出すだけじゃ生ぬるい。あの子のあの空っぽなプライドごと、徹底的に叩き潰してくれる場所に持っていく」
三人は視線を交わし、手元の証拠を静かに鞄の中へとしまい込んだ。路地裏の奥深くに潜む、あの冷徹な館の扉を叩くために。




