第1話 仮暮らしのユウキ
木漏れ日が差し込む穏やかな昼下がり。風に揺れる木々のざわめきと、どこか牧歌的なアコースティックの調べが街を包んでいた。絵本から飛び出してきたような柔らかな色彩のカフェのテラス席で、ユウキ・ナガサトは両手を広げて屈託のない笑みを浮かべている。
「ねえねえ、ユキコ! ちょっとだけでいいから、お財布からあの四角い紙貸して? ほら、私ってば今月ちょっとピンチなだけだからさ!」
首を傾げて悪びれもせず微笑むその姿は、一見すると世間知らずで愛嬌のある、ちょっぴりおバカなヒロインそのものだった。戸惑いながら財布を開くユキコから手際よく札を抜き取ると、ユウキは「ありがとー! 持つべきものは友だちだよねっ」と花が咲くような笑顔を振りまく。
場面は変わり、別の日のベーカリーの前。今度はアキコの腕にすり寄る。
「アキコぉ、喉かわいちゃった。あそこの高いジュース飲みたいなぁ。……え? 私のお金? それって何? おいしいの? 難しいこと、わかんない!」
からからと無邪気に笑い、渋るアキコの電子マネーをちゃっかり決済端末にかざさせる。
さらに夕暮れの商店街では、ミサトの背中を叩きながら軽快にステップを踏む。
「ミサト、金持ってるから私を見て! ……あ、間違えた、ミサトが金持ってるんだっけ! まあ同じだよね、私たち親友なんだから! 金がすべてでしょ?」
借りているのではない。彼女の世界では、他人のものはすべて自分の手の届く場所にある「恵み」なのだ。まるで自然の恵みを少しだけ分けてもらう小人のように、悪意の欠片もない無垢な顔をして、ユウキは友人たちの生活をじわじわと、だが確実に侵食していく。
手に入れた小銭をポケットでチャラチャラと鳴らし、スキップ混じりに路地を駆けていくユウキの後ろ姿。
その足元に、やがて踏み抜くことになる巨大な不発弾が埋まっていることなど、まだ誰も知らない。




