第19話 湿気った花火
「お前の人生、湿気った花火をあげろ。第9篇だ」
レンブラント中佐がチェック柄のネクタイを指先で弾き、後頭部を靴底で無慈悲に踏み抜いた。冷徹な菫色の瞳には、ゴミを処分する前の冷淡な光だけが淀みなく揺れている。
「ほら、貴様が自己陶酔の果てにひり出した、最後の下水のような文字列だ。火薬の湿気った粗悪な花火を、その震える口から打ち上げてみろ。一文字でも噛んだら、喉笛をその靴底で塞ぐぞ」
「ひっ……! い、息が……っ! よ、読みます、読みますからぁ……っ!」
ユウキは涙と鼻水、そして冷や汗でぐしゃぐしゃになったスマートフォンを両手で抱え込み、自らの処刑台となる最後のポエムを、引き攣った絶叫交じりに読み上げた。
「『……たいとる、ジラエッティの永遠のワルツ……。
お金がなくても、私にはこの美しさがある。
世界は私のために回ってるし、みんな私の引き立て役。
踏み台にした友だちの名前なんて、忘れちゃった。
だって私、未来しか見えないお姫様だから……☆
誰にも捕まえられない、風のような存在。
残高ゼロのプライドを抱いて、
今日も誰かの人生をステップにして、踊り続けるの……。
これが、私の……ハッピーエンド……チュッ♡』」
最後の単語が虚しく地下室の壁に反響し、完全なる静寂が落ちた。
「……『ハッピーエンド』、ですか」
レム判事は優雅に足を組み替え、肩を踏みしめる踵の重心を静かに固定した。菫色の瞳にゾッとするような冷たい愉悦を宿し、静かに嗤う。
「他人の人生をステップにして踊り狂った結果、辿り着いたのがこの冷たい地下の絨毯の上とは、なんとも皮肉な幕引きですね。踏み台にした友人の名前を忘れたとおっしゃいましたが……ご安心なさい。その友人たちから提出された被害届と証拠書類の一文字一文字が、これから貴女の背骨に一生涯刻まれることになります」
「ハッピーエンドどころか、ここからが貴様のバッドエンドの開演だ」
レンブラント中佐が冷酷に吐き捨て、後頭部を踏みつける靴底に全体重を乗せた。
グシャッ!
「ひぎゃあああッ……! 許して、助けて、ハッピーエンドにしてぇぇ……!」
「誰が貴様のような害虫にハッピーエンドなど与えるものか」
中佐は知的な声音のまま、絶対零度のトーンで言い放った。
「風のような存在などと気取るな。貴様はただ、地面を這いずり回って他人の養分を吸い尽くすだけのクソダニだ。その湿気った花火の燃え殻ごと、鉄格子の奥で永遠に腐り果てるがいい」
全9篇のポエムの公開処刑が終わり、ユウキの肥大化した空洞プライドは文字通り一片の破片すら残さず粉砕された。床にはただ、実刑という冷徹な現実を前にして、無様に震える『0円女王様』の抜け殻だけが転がっていた。




