第18話 人生セミファイナル
「あなたの人生セミファイナルです。第8篇を」
レム判事は白のジャケットの袖口を優雅に整え、肩に置いた踵の角度をミリ単位で微調整した。菫色の怜悧な瞳には、もはや憐憫の欠片すら残されていない。
「終わりが見えてきましたね。貴女が積み上げてきた虚栄の塔が、音を立てて瓦解していくクライマックスです。さあ、その濁った喉を震わせなさい」
「ひっ……! あ、足が、重いぃ……っ! よ、読みますぅ……!」
ユウキは血の気のない指先で震える端末を支え、自らの逃げ道を塞ぐように並ぶ言葉を、嗚咽混じりに絞り出した。
「『……たいとる、世界中が私のパトロン。
みんなが汗水垂らして働くのは、私を輝かせるため。
感謝の気持ち、忘れないでね?
私が息をしてるだけで、この街は映えてるんだから。
お財布がすっからかんでも、私のプライドは満タン。
貸した金返せとか、器の小ささに草生えるwww
私は奪ってない、世界の富を循環させてるだけ。
愛される天才、それが私……てへぺろ☆』」
読み終えた瞬間、室内の空気が絶対零度を突き抜けて凍りついた。
「……『富の循環』からの『てへぺろ☆』ですか」
レム判事は冷たく細めた瞳でユウキを見下ろし、涼やかな声で淡々と切り捨てた。
「他人の財産を横領・詐取しておきながら『世界の富の循環』と嘯くその壮大な誇大妄想……。社会科の初歩すら理解できていない知能で経済を語る滑稽さは、まさに喜劇ですね。満タンなのはプライドではなく、貴女自身の罪状リストだけです」
「循環ではなく一方通行の略奪だ」
レンブラント中佐が後頭部の靴底をゆっくりと捩じり込み、冷徹に吐き捨てた。
「『草生える』だと? 貴様の人生の上に生えるのは、墓標の雑草くらいのものだ。他人の善意と労働を『映え』の小道具に使い潰したツケを、その薄っぺらな身体ひとつで支払う準備はできているか?」
「ひぎぃっ……! ごべんなざいっ! 循環させます、お金返しますからぁ……っ!」
「返す金など、一銭も持っていないでしょうに」
レム判事は冷酷な笑みを浮かべ、スマートフォンの画面を最後の行へとスクロールした。
「さあ、ジラエッティ。いよいよグランドフィナーレです。貴女の人生の幕引きを飾る、最後の1篇を」




