第17話 腐ったミカン
「第7篇な。腐ったミカン」
レンブラント中佐がネクタイの結び目を指先でなぞりながら、後頭部を靴底でコツリと小突いた。菫色の瞳に宿る絶対零度の光が、床に潰れたユウキを逃げ場のない檻のように縛り付ける。
「箱の中に一つ混ざっただけで周りごと腐らせる、出来損ないの生ゴミだ。ほら、貴様が自己満足で発酵させた異臭漂うテキストを垂れ流せ。途中で詰まったら、その頭蓋ごと踏み抜くぞ」
「ひっ……! あ、頭割れちゃう、割れちゃうからぁ……っ!」
ユウキは涙と皮脂でドロドロになったスマートフォンを必死で握り直し、引き攣った呼吸のまま第7篇の文字列を震える声で読み上げた。
「『……たいとる、私の涙は宝石のしずく……。
泣いてあげてるんだから、みんな私に優しくして?
怒る友だち、意味ぷー。
お金くらいでケチケチするの、器小さすぎだし。
私がかわいそうって思わないの?
奪われたんじゃない、私にプレゼントしたと思えばいいじゃん。
神様、私に美貌と自由をありがとう……☆
今日も誰かの優しさで、私のお腹はいっぱい……ぱくっ♡』」
あまりの身勝手さと寄生根性の露骨さに、地下サロンの空気が凍りついた。
「……『意味ぷー』からの『ぱくっ♡』ですか」
レム判事は足を組み直しながら、肩を踏みしめる踵の重心を静かに固定した。菫色の瞳を細め、冷淡極まりない笑みを零す。
「他人の血汗を勝手に『プレゼント』と脳内変換し、被害者を『器が小さい』と見下すその認知の歪み……。宝石どころか、ただの不法投棄された産業廃棄物ですね。施しを貪り食う寄生虫が、神の恩寵を騙るなど滑稽の極みです」
「優しさを喰い散らかす害獣め」
レンブラント中佐が吐き捨てるように言い放ち、靴底にじわりと圧力を加えた。
「器が小さいのではない、貴様の面の皮が厚すぎるのだ。他人の善意を食い潰しておいて『ぱくっ♡』だと? 次に貴様が腹に詰め込むのは、冷たい雑居房の粗食だけだ」
「ひぎゃああッ! ごめんなさいぃ! もう、もうお腹いっぱい、許してぇぇ……!」
「誰もお腹の話などしていませんよ」
レム判事は冷徹な眼差しで、床に転がるスマートフォンを爪先で指し示した。
「さあ、残るはあと2篇。ジラエッティ、最後まで美しく散りなさい」




