第16話 汚泥のオートチャージ
「おやおや。這いずり回るのはおよしなさい。見苦しいですよ。……第6篇は?」
レム判事は白のジャケットを微塵も乱さず、肩口に乗せた踵をわずかに滑らせて冷淡に微笑んだ。その菫色の瞳には、絨毯の上の汚物を冷徹に見定める光だけが宿っている。
「ひっ……! あ、足、どけてぇ……っ! よ、読みますからぁ……!」
ユウキは擦りむいた指先で画面をスクロールし、嗚咽を漏らしながら次の文字列を震える唇で追った。
「『……たいとる、世界は私のオートチャージ。
私を怒らせるやつ、全員ブロック安定。
反省とか意味わかんない、私がルールだし?
友情なんて、必要なときにだけ引き出せばいいの。
残高ゼロの私を愛せないなら、最初から寄ってこないで。
私の美しさに、手数料くらい払いなさいよ。
謝ったら負け、逃げ切ったら勝ち。
これが……私の、勝ち組ロード……にゃん♡』」
地下サロンに落ちたのは、吐き気すら催すような静寂だった。
「……『にゃん♡』、ですか」
レム判事は涼やかに片眉を上げ、細い指先で額を押さえて優雅にため息を零した。
「他人の財産を『オートチャージ』と錯覚し、自己愛の暴走を『勝ち組ロード』と嘯く。謝罪を拒絶し、搾取を正当化するその浅ましい生存戦略……。倫理の欠如もさることながら、語尾に頼らねば自己を保てないその幼稚さは、もはや精神の退行現象ですね」
「ブロックされるのは貴様自身の人生だ」
レンブラント中佐が後頭部の靴底をゆっくりと捩じり込み、知的な声音で冷酷に切り捨てた。
「他者の信頼を食い潰して敷いたその道は、勝ち組ロードではなく刑務所への直通ルートだ。手数料を取られるべきは、貴様がこの世に垂れ流した汚染物質の処理代だろうが」
「ひぎぃっ……! ごべんなざいっ、もう読めない、読めないよぉ……!」
「読めない、ではありません。読むのです」
レム判事は冷たく細めた瞳で画面を示した。
「まだ3篇も残っていますよ。貴女が紡いだ、誇り高き『知性の残骸』がね」




