第15話 砕かれたガラスの靴
「第5篇だ。砕かれたガラスの靴がポエムだろ。ジラエッティ」
レンブラント中佐がチェック柄のネクタイを整え、後頭部に乗せた靴底でコツンと冷たい合図を送った。菫色の双眸には、獲物を追い詰める冷酷な光が淀みなく揺れている。
「ほら、貴様が脱ぎ捨てたと思い込んでいた、安物のプラスチックの靴の切れ端を拾い集めて読め。噛んだら頭蓋の強度を試すぞ」
「ひっ……! よ、読みますぅ……っ! 踏まないでぇ……!」
ユウキは引き攣った呼吸を漏らし、涙で歪む画面の文字列をかき集めるようにして声を絞り出した。
「『……たいとる、ガラスの靴は誰のもの?
12時の鐘が鳴っても、私のパーティーは終わらない。
カボチャの馬車がなくても、タクシー代は誰かが出すから。
靴を落としたんじゃない、私が捨ててあげたの。
追っかけてきなさいよ、王子様(笑)。
魔法が解けたって、私のかわいさは解けないもん。
お金がないのは、私の魂が重力から自由な証拠……。
ふふっ、捕まえられるものなら捕まえてごらんなさい……バキューン☆』」
読み終えた瞬間、室内の空気が絶対零度まで冷え込んだ。
「……『魂が重力から自由』、ですか」
レム判事が細い指先で前髪を払うように整え、冷徹な菫色の瞳を細めて低く笑った。
「無賃乗車と詐取を『重力からの解放』と美化するその厚かましさ、まさに知性の完全な空洞化ですね。『バキューン☆』と放った銃弾が、いま貴女自身の薄っぺらな頭蓋を撃ち抜いていることに、いつ気付くのでしょうか」
「王子はおろか、迎えに来たのは手錠と鉄格子だがな」
レンブラント中佐が冷淡に吐き捨て、靴底にじわりと体重を乗せた。
「カボチャの馬車ではなく護送車だ。他人の善意を踏み躙ってドブに捨てたプラスチックの靴で、よくもまあここまで無様に踊り狂えたものだ。……恥を知れ、クソダニ」
「ひぎゃああッ! ごめんなさい、ごめんなさいぃぃ……!」
逃げ場のない物理的・精神的な解体の前で、ユウキは自らの壊滅的な語彙と傲慢さが生み出した劇薬に呑まれ、ただ無様に床を這いずるしかなかった。




